2013 Fiscal Year Annual Research Report
核酸塩基多量体における多彩な光化学過程の量子化学的追究
Project/Area Number |
25888003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
山崎 祥平 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (90570177)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 核酸塩基 / 水素結合 / 光化学過程 / クラスター / 励起状態 / 無輻射失活 / 量子化学 / 分子軌道法 |
Research Abstract |
核酸塩基多量体の光化学的・光物理的性質について系統的かつ分子レベルで理解するための基礎として、塩基の単量体及びその水和クラスターで起こる光化学過程について、分子軌道法による電子状態計算並びに分子動力学法によるシミュレーションを用いた機構解明を推進した。まず、プリン代謝の最終生成物である尿酸における光化学過程の機構に対する一分子水和の影響について、励起状態におけるポテンシャルエネルギー曲面の高精度な量子化学計算を行うことによって検討した。特に、水分子の配位位置が異なる複数の異性体について、それらの間における光物理的挙動の違いに焦点を当てた計算を遂行した。その結果、特定の位置のカルボニル基に水分子が配位したときに励起エネルギーが著しく低下すること、そして一部の異性体では光励起後に水分子が他の位置に移動する可能性があることを明らかにした。これらの挙動は、尿酸の水和クラスターにおける共鳴二光子イオン化スペクトルの実験で見られる特異な観測結果とよい対応を示している。さらにこの結果は、光励起した核酸塩基の振る舞いが、水分子等との少数の水素結合によって劇的に変化する可能性をも示唆している。一方、DNA塩基であるシトシン及びチミンにおける高速な無輻射失活過程についての機構解明も推進した。シトシンでは、ケト体・エノール体・イミノ体という三つの互変異性体について励起状態における反応経路を詳細に検討することにより、複数の成分からなる時間分解スペクトルの合理的な解釈に成功した。チミンでは、水溶液中での無輻射失活について気相中にはない新たな機構によって起こる可能性を見出すとともに、その機構の発現において水分子との水素結合が本質的な役割を果たしていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
核酸塩基やその水和クラスターにおける光化学過程の機構解明が十分に進展した。特に、尿酸やチミンの研究を通じて、核酸塩基の光物理的挙動が少数の水素結合の影響によって大きく変化することを明らかにできた。これは、塩基の多量体についても水素結合が本質的な役割を果たしうることを示唆する重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、核酸塩基及びその多量体における光化学過程に関する理論研究を推進する。特に、塩基分子と溶媒分子との間、あるいは複数の塩基分子間の水素結合が光化学過程の機構に及ぼす影響について、量子化学計算を用いたより詳細な検討を行う。
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Research Products
(8 results)