2013 Fiscal Year Annual Research Report
二核ルテニウムラジカル錯体を基盤としたアンモニア酸化触媒の開発
Project/Area Number |
25888010
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菊池 貴 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (90711458)
|
Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
Keywords | 触媒 / 酸化反応 / アンモニア / ルテニウム |
Research Abstract |
アンモニアを電気化学的に酸化してN-N結合を形成させる触媒は、直接アンモニア型燃料電池の負極触媒として重要である。既知の貴金属触媒は、コストの問題に加え、反応機構解析に基づく合理的な触媒設計が困難であり、基質選択的な反応の実現にも難点を抱える。本研究では、アンモニア等の小分子をプロトン解離と共役した分子内電子移動によりラジカルとして活性化できるキノンルテニウム錯体を基盤としてアンモニア酸化分子触媒を創出することで、これらの問題点の解決を狙っている。 アンモニアを活性化したラジカル種の反応性を詳しく調べるため、アンモニアを配位子に持った単核ルテニウム錯体を合成し、プロトン解離による活性化を行ったところ、生成したラジカルは極めて反応性が高く、分子間反応に関する反応性を調べることは困難であった。 そこで、アンモニア配位子上に芳香環を導入することでラジカルを安定化させ、その反応性を詳しく調べた。ルテニウムアニリン錯体からプロトン解離によって発生させたラジカル種は高い安定性を示したが、さらに酸化を行うことで分子間のラジカルカップリングが進行し、アニリン二量体により架橋されたルテニウム二核錯体を与えた。その構造は、質量分析、分光測定、電気化学測定、および単結晶X線構造解析により明らかにすることができた。興味深いことに、分子間の結合形成反応はアミン窒素と芳香環のパラ位の炭素の間で選択的に起こった。類似のアニリン錯体においてはC-C結合が選択的に形成することが知られており、今回得られた結果は、ルテニウムキノン骨格が、特に窒素原子上のラジカルを強く安定化することを示している。一方、芳香環のパラ位をメチル基により塞いだ錯体では分子間反応は全く進行しなかったことから、N-N結合の形成はアミン窒素周りの立体障害によって抑制されていると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初、アンモニア配位子を有するルテニウムキノン錯体を架橋配位子により連結した複核錯体の合成を第一の目標として掲げた。実際に、水の酸化触媒として知られる複核ヒドロキソルテニウムキノン錯体と同様の架橋配位子を用いて合成を試みたが、キノン配位子上の嵩高い置換基や剛直な架橋配位子の立体障害のために内部空間の大きさが不十分であったためか、アンモニア二分子を収容した錯体の合成には至っていない。 一方で、単核ルテニウムキノン錯体を用いてアンモニアを活性化し、分子間反応により結合形成を行うことができれば、単独でアンモニア酸化触媒としての機能が期待されると共に、複核錯体の反応性・反応機構を考察する上で重要な知見を与える。単核アンミンルテニウムキノン錯体からプロトン解離により調製したアミニルラジカルは極めて活性で、その分子間反応に関する反応性を調べることは困難であったが、窒素上に芳香環を導入してラジカルを安定化することで、その反応性を詳しく調べることができた。単核アニリンルテニウムキノン錯体から発生させた安定なアミニルラジカルは、分子間でラジカルカップリングを起こし二量体を与え、その際に窒素上における結合形成を伴ったことから、ルテニウムキノン錯体の骨格はアミニルラジカルの特異的な安定化に極めて有用であることを示すことができた。 ルテニウムキノン錯体上におけるアミン配位子の反応性に関してこれまでに得られた知見は、この錯体がアンモニアの酸化によりN-N結合形成を実現できる可能性を強く支持するものである。また、これまでの結果から錯体の電子的・立体的要素がラジカルの安定性・反応性に与える影響に関する多くの知見を得られたことは、複核錯体を設計する上で大きな一助となることは間違いないと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究の結果、ルテニウムキノン錯体上のアミン配位子がプロトン解離により特異的に窒素ラジカルとして活性化され、ラジカルカップリングによる結合形成反応に有用であることが明らかになった。今年度は、前年度に得られた知見を活かし、単核錯体・複核錯体の双方を用いてアンモニア酸化触媒の実現を目指す。 単核錯体については、不活性溶媒中でのアンモニア酸化を検討する。無置換のアミニルラジカル錯体は極めて活性が高く、分子間N-N結合形成反応は実現できていないが、その原因としては溶媒との反応が主であると考えている。酸化反応に対して安定なエーテル系またはハロゲン系溶媒を利用することで、分子間ラジカルカップリングが起こることが期待される。N-N結合形成の結果生成したヒドラジンまたは窒素をアンモニアガスを用いて置換することができれば、触媒的に酸化反応サイクルが進行すると期待される。 複核錯体については、金属中心周りの立体障害を低減することで、基質であるアンモニア二分子の収容を可能にし、また置換反応を促進することで触媒的アンモニア酸化反応への応用を検討する。前年度の研究の結果、アントラセン架橋配位子を基盤とした複核ルテニウム錯体は、剛直な骨格とキノン配位子の嵩高い置換基の影響で、アンモニア二分子からN-N結合を形成する反応場として十分な空間を提供できないことがわかった。そこで、キノン配位子の電子的性質を維持したまま、置換基をより小さなものに置き換える、あるいは取り除くことで、十分な内部空間を創出する。架橋配位子としても柔軟な骨格または結合距離の長い分子を利用することで、反応空間の拡大を狙う。単核錯体の場合と異なり、二つのアミニルラジカルは空間的に近接した位置に発生するため、N-N結合形成が優先的に進行し、より応用面で有利な水中でのアンモニア酸化も可能になると期待される。
|