2013 Fiscal Year Annual Research Report
微小共振器のキラリティ制御による偏光量子もつれ光子対発生の研究
Project/Area Number |
25889001
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
黒澤 裕之 北海道大学, 電子科学研究所, 研究員 (20708367)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 微小光共振器 / 量子もつれ光子対 / 量子ドット / 高Q値 |
Research Abstract |
初年度はまず、量子もつれ光子対を発生させるための金属埋込み型半導体ピラー共振器の作製とそのQ値(Q value)の評価を行った。数値シミュレーションを用いて、高いQ値が得られるような金属埋め込み型微小光共振器の設計を行い、電子線描画とドライエッチングを用いて微小光共振器を実際に作製した。共振器からの発光を測定し、その線幅からQ値の評価を行ったところ、通信波長帯にて11,000という金属埋め込み型共振器としては世界最高値となるQ値を得た。 以上のような数値計算による手法に加え、本研究では、金属埋め込み型微小光共振器において、これまでに報告されていなかった高いQ値が得られる物理的な機構を明らかするために電磁場の波動方程式による解析を行った。円筒対称性を持つ系の波動方程式を式変形していくと、一次元のシュレディンガー方程式と等価な形に式変形できる事がこれまでに分かっている。これは、円筒対称性を有する系における電磁場の問題は、有効ポテンシャル中におかれた量子力学的粒子の運動と等価である事を意味する。この結果を金属埋め込み型微小光共振器に適用した結果、半導体ナノピラーと金属層の間の絶縁膜の膜厚が高Q値を得るための重要なパラメータであることが明らかとなった。絶縁膜が薄い場合、半導体ナノピラー中の光場は金属層との重なりが大きく、金属のジュール損失によってQ値が低下してしまう。一方、絶縁膜の厚さを厚くしても、半導体ナノピラーから光がトンネル効果によって漏れだし、Q値が低下してしまう事が分かった。すなわち、トンネル効果を起こさない程度に絶縁膜の厚さを厚くする事が高Q値を得る重要なパラメータであることが明らかとなった。この解析結果を共振器の設計にフィードバックしたところ、Q値を63万程度まで上げる事が可能であることが分かった。この結果は現在学術論文としてまとめている途中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、数値シミュレーションに基づいた金属埋め込み型半導体ナノピラー共振器の作製に成功し、通信波長帯にて金属埋め込み型共振器としては世界最高値となるQ値11,000を達成した。本研究の目標である量子もつれ光子対の発生には、高いQ値と高い光取り出し効率を有することが必須である。それらの要素の内、高いQ値を実証でき、初年度の目標としては達成できたと言える。また、これまでに我々の研究グループでは波長900 nm、Q値9000という値を得ていたが、20Kという低温下であった。本研究で得られた通信波長帯におけるQ値は室温で観測された。室温にて高Q値が観測された事は、金属埋込み型光共振器において、低温下で金属によるジュール損失が抑制されたのではなく、金属損失そのものが抑制できている事を示している。量子もつれ光子対への応用・実用を考えた場合、室温動作することは重要な要件であり、室温動作可能である事を示した意義は大きいと言える。 本研究では、電磁場の波動方程式を解析することにより、高いQ値を得るための物理的な指針を得た。これまでは数値シミュレーションによって共振器の構造および材料パラメータを系統的に変換させる事によって高いQ値を有する金属埋込み型光共振器を設計してきた。本研究によって、高いQ値を得るための設計指針を得ることができ、今後の共振器の設計および作製が効率的に行えるようになり、次年度の課題である高い光取り出し効率を有する共振器の研究基盤が達成できたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、数値シミュレーションで得られた高いQ値63万程度を実際に観測する事を目指す。これまで行ってきたような共振器からの発光の線幅を評価する手法では、分光器の波長分解能による制限を受け、このような高いQ値を測定することはできない。この問題を解決するために、波長可変レーザーを掃引して共振器からの散乱を測定する光学系を構築する。この光学系では、分解能は波長可変レーザーの波長ステップによって決定され、本研究で観測を目指す63万という値を観測するに十分な分解能を有する。 実際に量子ドットを共振器内に導入して、共振器効果によって増強された量子もつれ光子対の観測を行う。これまでに、量子ドットを含む半導体基板をドライエッチングした際に、量子ドットが光らなくなる事があり、ドライエッチングの強度に関しての最適化が必要になると思われ、その条件出しを行う予定である。また、量子もつれ光子対においては、その発光効率は取り出し効率の2乗に比例するために、共振器に高い光取り出し効率がある事が重要である。基本的に高いQ値と取り出し効率はトレードオフの関係にあるが、量子もつれ光子対を発生させるにあたり、最適なQ値と光取り出し効率の関係を明らかにする必要がある。 最終的に共振器にキラリティーを導入して、キラリティーに依存した応答があることを確認する予定である。その際にキラル、アキラル、逆キラルの3種類のキラリティーを有する構造を作製し、比較・検討を行う。
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Research Products
(5 results)