2013 Fiscal Year Annual Research Report
ベシクル膜による“アンサンブル型”分子認識・変換反応
Project/Area Number |
25889039
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菅 恵嗣 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00709800)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | リポソーム / 自己組織化 / ”協奏的”分子認識 / 表面増強ラマン分光解析 / RNA / 環化付加反応 |
Research Abstract |
H25年度の研究実績について,下記の3項目を重点課題として取り組んだ. 1.自己組織化膜(ベシクル膜)のミクロ膜特性評価:ベシクル膜への配向深さの異なる蛍光プローブ(DPH,Laurdan,Prodan,TNS,TMA-DPH,)を活用して物理化学的な膜特性評価を行い,相図として一連の膜特性を体系化した.さらに,ラマン分光解析を用いて脂質膜の特性を直接的に観察する手法についても検討し,金属ナノ粒子表層に脂質膜を修飾する事で,ラマン強度が約10倍に増強される事を明らかにした【国際会議3,国内学会5,論文投稿済1】. 2.ベシクル膜表層における分子認識:種々の生体分子(タンパク質,酵素,核酸,アミノ酸,他低分子化合物)について,対象分子をベシクル膜表層に集積化させるための膜デザイン手法について検討した.特にペプチド分子(タンパク質,酵素含む)や核酸分子(一本鎖RNA)の相互作用に伴って,ベシクル膜の表層環境が変動し,“協奏的”に対象分子が認識される可能性を示した.特にRNA分子の場合,ベシクル膜上において水素結合相互作用が形成され,RNAを構成する塩基によって相互作用機構が異なる事を明らかにした【国際会議2,国内学会2,論文投稿済1】. 3.ベシクル膜を「場」とする変換反応の制御:親水性分子(N-ethylmelimide)と親油性分子(Benzonitrile oxide)の環化付加反応をケーススタディとして,ベシクル膜デザインによる基質分子の認識,ならびに変換反応について検討した結果,正電荷脂質膜上においてi)基質分子の分配の促進,2)基質分配に伴う膜表層環境の変化,3)環化付加反応の促進がそれぞれ明らかとなった.特に,基質が膜表層に分配されて誘導される新たな膜特性は,反応を促進させる大きな要因となっている【国際会議2,国内学会4,論文投稿済1,論文執筆中1】.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H25年度は,(i)蛍光プローブを用いた自己組織化膜(ベシクル膜)のミクロ膜特性評価,(ii)表面増強ラマン分光解析(SERS)に基づくベシクル膜特性の解析,(iii)ベシクル膜と生体分子・基質分子の相互作用機構の解明ならびに環化付加反応への応用について検討を行った.研究の最終目的である“アンサンブル型”分子認識を評価するための基盤を整えることができた.また,ベシクル膜界面を活用する変換反応(1,3-dipolarcycloaddition反応,他)について検討を行い,ベシクル膜を「場」とする変換反応の制御について研究を進展させている.よって,H25年度では,おおむね順調に研究が進展していると考えられる.以下では,上記(i)-(iii)について,主な進展状況を述べる. (i)各種蛍光プローブ(DPH,Laurdan,他)について,ベシクル膜のミクロな環境を評価する方法論を確立した.各種蛍光プローブは,プローブ分子が配向された領域近傍のミクロな極性や粘度を反映する事を明らかにした.さらに,生体分子や疎水性分子を膜に配向させた場合,分子の相互作用に伴って膜表層の環境が影響される事を明らかにした.したがって,ゲスト分子の相互作用により協奏的に膜表層が変化する可能性が示唆された. (ii)金属ナノ粒子表層にリン脂質やChを複合化させ,ベシクル膜と同様の膜特性をゆうする担体の開発に成功した.従来では,ラマン分光によるベシクル膜の非侵襲・直接観察において数十mMの脂質濃度を必要としていたが,本研究では,0.1mMの脂質濃度でも高感度でラマン分光が解析可能となった. (iii)1,3-dipolarcycloaddition反応におけるベシクル膜の影響について調査し,正電荷ベシクル膜表層では,相対的に反応速度が約3倍に増大する事を明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針は,(1)ベシクル膜界面における分子認識機構の解明,(2)ベシクル膜界面を「場」とする変換反応について重点的に研究を遂行する予定である. (1)表面増強ラマン分光ならびに蛍光プローブ法を活用して,協奏的な分子認識について検討を行う.一般に,分子インプリント膜の様な,3次元的なマトリックス構造を有する担体がキラル選択的な分子認識を示す事が知られている.本研究では,ベシクル膜の表層に水素結合を誘導する脂質(例:脂肪酸)やキラル脂質分子(例:不斉リン脂質,不斉長鎖アルコール)を導入する事により,ベシクル膜表層でターゲット分子との相互作用を集積化させ,ミクロドメインにおける分子認識について検討を行う.さらに,温度に対するターゲット分子の相互作用の制御についても検討を行い,最終的には,“アンサンブル型”分子認識のOn/Off制御を目指す. (2)ベシクル膜界面を「場」とする反応系として,前年度に引き続き,1,3-dipolarcycloaddition反応の制御について検討を行う.一般に,Diels-Alder型反応では重金属イオン(銅イオン,他)が触媒として働くことが知られているが,本研究では金属イオンを必要としない反応系の開発に着目する.正電荷脂質(四級アンモニウム基を含む)でベシクル膜を修飾する事により,上述の反応の促進効果が得られる事が明らかになっている.さらに,ベシクル膜のミクロドメインに触媒分子を集積させ,基質分子-脂質分子の相互作用により,生成物の立体構造や不斉性を制御する可能性について検討を行う.
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