2013 Fiscal Year Annual Research Report
分子動力学シミュレーションを用いた冷房空調用の蓄熱媒体の探索
Project/Area Number |
25889054
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
金子 敏宏 東京理科大学, 理工学部, 助教 (00711540)
|
Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
Keywords | 化学物理 / 計算物理 / 熱工学 / 氷 / 分子動力学 / 相転移 / ナノ細孔 / 蓄熱材料 |
Research Abstract |
近年のナノテクノロジーの進歩に伴い分子数個程度のサイズに制御された空間(ナノ細孔)を作成することが可能になり,その中に物質を閉じ込めることでバルクにはない豊かな熱物性が発現することが知られている.そのひとつに固液相転移温度が上昇することが挙げられ,実際に多数の実験で報告されている.本研究課題ではこの性質を冷房空調用の蓄熱媒体に利用することを目指し,ナノ細孔に閉じ込められた水や水和物の相転移を分子動力学シミュレーションにより研究した.具体的には,(i)不純物を添加した水分子集合体,(ii)ナノ細孔中の水分子および水和物,を計算対象としてそれらの熱物性を予測した. まず,(i) に関して,過去の研究で使用した水分子集合体をシミュレーションするプログラムを改良し,不純物を追加した計算ができるようにした.つぎに,(ii)に関して,ナノ細孔中に水分子を閉じ込めた系において,液相中に固相が生成するときに超えるべき自由エネルギー障壁の大きさを計算した.その結果,細孔サイズによってこのエネルギー障壁が変化することを明かにした.このエネルギー障壁は過冷却現象と密接に関係しており,エネルギー障壁が変化する原因を考察することで,物質の融点を調整するうえで有用な知見が得られると期待される. 以上のシミュレーションは本予算で購入した分子動力学用計算サーバーで行ない,研究の部分的な成果を日本物理学会第69回年次大会と 3rd International Conference on Molecular Simulation で発表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね研究は順調に進行している.まず「(i) 不純物を添加した水分子集合体の研究」に関して,過去の研究で使用した水分子集合体をシミュレーションするプログラムを改良し,疎水性分子を模擬した様々な特徴を持つ球形分子を追加した計算ができるようにした.コードの妥当性の検証と高速化が今後の課題であるが,このプログラムを使用することで不純物を添加した水分子集合体の比熱曲線や融点の測定などの熱物性の評価ができる.また,「(ii)ナノ細孔中の水分子および水和物」の研究については予定とは異なった方向へ研究が進展した.当初の研究計画では融点や潜熱に注目していたが,予想に反して液相中に固相が生成するときに超えるべき自由エネルギー障壁に特徴的なふるまいを観測することができた.今後,エネルギー障壁が変化する分子論的メカニズムを考察することで,ナノ細孔を利用して物質の融点を調整する方法を模索する.以上のとおり研究計画の変更はあるものの,おおむね順調に進行している.
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究にひきつづき,(i)不純物を添加した水分子集合体,(ii)ナノ細孔中の水分子および水和物を計算対象として分子動力学シミュレーションによる熱物性の評価を行う. まず,研究 (i) に関して,現在開発中の不純物を添加した水分子集合体の融点を計算する分子動力学シミュレーションのコードの妥当性を検証し,上でプログラムの高速化を行う.そして潜熱が大きく融点が高い物質を効率良く探索する.具体的には 10 - 100 分子程度の水分子集合体にイオンや疎水性分子を模擬した様々な特徴を持つ球形分子を添加し,安定な分子構造を探索するとともに温度の影響を調べて,比熱曲線や内部エネルギーの温度依存性を計算する.拡張アンサンブル法をもとにしたアプローチにより,これらの物理量を精度良く計算する.そして,温度を上げても安定構造が壊れにくく,壊れるときに大きなエネルギー変化を伴なうような不純物の物理化学的特徴を明らかにする.また観測された安定構造を既知の水和構造と比較し,まだ発見されていない水和物の存在が示唆された場合はそこに集中して研究する. つぎに,研究 (ii) に関して,昨年度までの研究では特定の条件下のナノ細孔中で大きな過冷却を必要とせずに結晶が生成する可能性を発見した.通常,液体から固体へ相転移するときは相転移温度よりも系を降温させる必要があるが,必要な過冷却度を下げることができれば系の融点を上昇させることと工学的には等価である.そこでこの座標データを解析したうえで,この相転移の分子論的描像を考察し,ナノ細孔中で過冷却度が低下するメカニズムを明らかにする.さらに,研究 (i) で提案した不純物をナノ細孔に追加した場合の分子動力学シミュレーションを行い,類似の現象が見られるかどうか検討する. 本年度は昨年の成果も含めて国際会議や学術雑誌などに積極的に研究成果を発信していく予定である.
|
Research Products
(2 results)