2013 Fiscal Year Annual Research Report
サーキット理論を用いた希少植物クロビイタヤの景観遺伝学
Project/Area Number |
25890002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐伯 いく代 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 特任助教 (70706837)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 保全生態学 / クロビイタヤ / 希少種 / 隔離遺存 / 生物地理 |
Research Abstract |
1.カエデ属の一種で、絶滅危惧種であるクロビイタヤ(Acer miyabei Maximowicz)について、分布域を網羅するように遺伝子解析用の葉のサンプルを採集し、自生地の地形や保全の状況について調査した。採集地は、北海道、青森県、岩手県、長野県内の23地点とし、計270個体からサンプルを採集した。うち長野県で採集した11個体は、果実に毛をもたないシバタカエデ(A. miyabei f. shibatae (Nakai) K.Ogata))であった。採集個体の一部については、さく葉標本を作製した。 2.自生地の概況を調査したところ、クロビイタヤは、川幅が5~数十メートル程度の渓流・河川に付随する湿った平坦地(氾濫原)や、そのさらに外側の谷壁斜面などに生育していた。しかしこうしたハビタットは、河川工事や道路の建設、牧場を含む農用地の造成などの人為的攪乱を受けているものがほとんどであった。過去に伐採の履歴のある森林では、萌芽由来と思われる複数の幹をもつ個体が多数を占めた。本種の自生地に生育していた樹種は、ヤチダモ(Fraxinus mandshurica Rupr.)、ハルニレ(Ulmus davidiana Planch. var. japonica (Rehder) Nakai)、カツラ(Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.)、ハナヒョウタンボク(Lonicera maackii (Rupr.) Maxim.)などであった。 3.採集したサンプルの一部を用い、核DNAのマイクロサテライトマーカーの開発を行った。専用のキットを用いてDNAの抽出を行った後、DNAの断片化と精製を行い、ライブラリーを作成した。これらに含まれるDNA断片の塩基配列を、次世代シーケンサーを使って読み取り、そのデータを用いて、マイクロサテライトマーカー用のプライマーを設計した。また採集地点の異なる8個体について、ユニバーサルプライマー5組(約2000塩基対)を用いて葉緑体DNAの遺伝子間領域をPCR増幅し、塩基配列を読み取った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は、おおむね計画どおりに進捗している。クロビイタヤのような絶滅危惧植物は生育地が限られているため、適切な採集地を見つけるのが困難な場合が多い。しかし本研究では初年度に、地元の植物愛好家や、研究団体などから生育地情報を多数提供いただき、比較的短時間で採集活動を行うことができた。270個体というサンプル数は初年度に目標としていた数を上回っており、来年度は、これを補完するサンプルを約100個体ほど追加で採集したいと考えている。遺伝子解析については、採集したすべての個体についてDNA抽出を行うことができた。またそれらの一部をつかって、マクロサテライトマーカーの開発に着手することができた。次世代シーケンサーによって、開発に必要なDNA断片のライブラリーをすでに得ることができているので、種内変異の検出に適した優良なマーカーが作成できるものと考えている。一連のラボ操作については、学外に研究協力に応じてくださる研究者がいたため、比較的スムーズに行うことができた。こうした方がたから引き続きアドバイスをいただき、研究をすすめていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
クロビイタヤの分布域の中でまだサンプルを採集できていない群馬県、福島県、長野県南部を中心に探索を行い、遺伝子解析に必要なサンプルをできるだけ早く集める。それと並行して、初年度に開発したプライマーのスクリーニングを行い、種内や個体の間の変異を検出するのに適した優良なマイクロサテライトマーカーの開発をすすめる。クロビイタヤは、ヨーロッパおよび中国に近縁種が生育することが報告されている。これらについては、国外の研究協力者や植物園よりサンプルを供試していただく予定であり、適宜、手続きをすすめていく。必要なサンプルが収集できたら、開発したマイクロサテライトマーカーを用いてクロビイタヤの地理的変異および遺伝的多様性について解析を行う。それらのデータにもとづいて遺伝的多様性の空間パターンを明らかにし、森林の分断化との関係をサーキット理論(circuit theory: McRae 2006; McRae & Beier 2007)を用いて定量化する。結果については学会で発表を行い、論文にまとめて投稿する。
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