Outline of Annual Research Achievements |
がんも炎症であり, 様々な免疫細胞がその組織に浸潤し, がん細胞との相互作用によって, がんの病態進行に影響を与えている. 近年, 好中球は活性化の後, apoptosis や necrosis とは違った細胞死を引き起こし, 好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps; NETs) とよばれる網目状のトラップを形成する新たな生体防御機構が明らかとなった. 本研究では, がん細胞と好中球の相互作用を NETs に焦点を当て検討を行った. まず, 細菌を用いて NETs の評価系の確立を試みた. その結果, NETs を誘導, 解析, 定量する実験系の確率に成功し, 投稿論文の形で報告した. 確率した NETs 評価系を用いて, がん細胞と好中球の相互作用で NETs が誘導されるかを検討したところ, 好中球を膀胱がん細胞株 EJ-1 の培養上清を用い培養することで NETs が誘導された. またこの時, タンパク分解酵素である matrix metalloproteinase (MMP)-9 の産生も増強しており, NETs 上に MMP-9 の局在が観察された. しかし, 胃がん細胞株 MKN1 の培養上清では NETs は形成されなかった. 次に, 好中球の存在下におけるがん細胞のマトリゲルへの浸潤をボイデンチャンバーを用いた浸潤実験系で評価したところ, EJ-1 細胞の浸潤能は好中球の存在下で有意に増強された. しかし, MKN1 細胞ではそのような浸潤能増強は起こらなかった. さらに, 実験系に NETs を分解する DNase I を添加することで, 好中球による EJ-1 細胞の浸潤能増強は抑制された. また, DNase I と MMP-9 阻害剤を同時添加したところ, 単独添加と同程度の浸潤増強抑制効果が認められた. このことから, EJ-1 細胞は NETs-MMP-9 を利用することで高い浸潤能を示すことが考えられた. 本研究から, がん細胞の違いにもよるが, 腫瘍組織に浸潤した好中球が NETs 形成を介し, がんの浸潤・転移を促進する可能性が示唆された.
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