2013 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム編集とデグロン法によるヒト新細胞遺伝学を応用した複製フォーク再生機構の解明
Project/Area Number |
25891026
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
夏目 豊彰 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 特任研究員 (10435513)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 次世代細胞遺伝学 / ゲノム編集 / DNA複製フォーク再生 / ICL修復 |
Research Abstract |
DNA複製フォークは染色体の倍加に必須である一方、大変脆弱であるという一面を持ち、鋳型上のDNA二本鎖間架橋(ICL)などの傷害が原因で構造的に解消されることがある。その際、フォークの再生が必要となるが、そのメカニズムについて高等生物ではほとんど理解されていない。本研究では、ヒト細胞の次世代細胞遺伝学を確立しつつ、以前の研究からフォーク再生における役割が示唆されているMcm8-9複合体の解析を中心に行っている。 本年度はまず、新ゲノム編集技術CRISPR法を用い、2種類のヒト培養細胞株においてMCM8またはMCM9遺伝子のノックアウト株を作成した。次に、これらの細胞株の様々なDNA傷害に対する感受性の検定を行い、ICLに特異的に強い感受性を示すことを明らかとした。さらに、免疫染色法を用い、ICL修復に必須な組換え酵素Rad51の下流においてMcm8-9複合体が働いていることを示した。本結果は、以前ニワトリ細胞で提唱されたモデルと一致し、Mcm8-9の機能は種間で高く保存されていることがわかった。また、Mcm8-9複合体のICL修復以外でのフォーク再生における役割を調べるため、複製フォーク構成因子であるMcm2遺伝子のC末端にオーキシン誘導デグロンを付加した株を、CRISPR法を用いて作成した。今後、人為的なフォークの解消が可能になり、フォーク再生の研究が大きく進むだろう。ただ、内在性MCM2遺伝子にデグロンを付加しただけでタンパクの発現量が減ることが分かり、これを改善するのが今後の課題である。 また、ヒト細胞でゲノム編集をより容易に行うための工夫・条件検討を行った。CRISPR法で細胞を処理した後、より効率的に目的のクローンを同定するため、一時的な薬剤選択や制限酵素サイトの利用などにより、1ヶ月以内に両遺伝子座を改変した細胞株を樹立することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数種のヒト細胞株においてヒトMCM8-9遺伝子破壊株の作成に成功し、またMCM2遺伝子のタギングも可能にした。これらの実験を通して、本研究課題の重要なステップの一つであるであるゲノム編集が、比較的容易に行えるようになり、今後のさらなる応用に向けての技術的基盤が完成した。また、作成した細胞株を用いてMcm8-9複合体のICL修復における機能解析も開始することができ、Mcm8-9複合体の機能が進化的に保存されていることが分かった。 一方、用いる細胞株の種類によってはゲノム編集の効率が低く、株の作成が少々難航した面もあった。それぞれの実験や目的に適した細胞株を選択をすることが今後大変重要である。また、染色体の再複製に関する研究は、平成26年度に着手する予定である。 平成25年度に得られた結果について、国内外合わせて計3つの学会で口頭・ポスター発表を行い、他の研究者からのフィードバックを数多く得ることができた。これらは次年度からの研究に大変有意義なものとなると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は軌道に乗り始めたヒトゲノム編集技術を駆使し、Mcm8-9複合体に関連する遺伝子の破壊株や、それらとの2重破壊株を作成し、細胞遺伝学的な解析を行う。遺伝学的に相互作用する因子の網羅的な解析おいては、最近開発された、CRISPRを利用したノックアウト株作成用ライブラリ(GeCKOなど)を利用すると、shRNAライブラリを用いた解析より、明確な結果が得られると考えている。 これまでの実験から、ゲノム編集技術を用いて内在遺伝子にタグを付加する際、導入された遺伝子配列内で高頻度に欠失や挿入が生じることが分かったが、このような問題点はこれまであまり報告されていない。遺伝子導入時の予期しない再編成が生じにくくなるような工夫(導入配列の改変など)が必要である。この問題を解決しつつ、GFPや精製タグをMCM8-9や他の遺伝子に付加し、核内での局在解析や物理的相互作用する因子の網羅的解析にも着手する。 また、学会などにおける積極的な情報交換を通して、本研究の遂行をより促進する。
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