2013 Fiscal Year Annual Research Report
カイコの卵成熟と発生開始を担うリン酸化カスケードの解明
Project/Area Number |
25892032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
笠嶋 めぐみ 独立行政法人農業生物資源研究所, 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット, 研究員 (90458290)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 発生・分化 |
Research Abstract |
動物の成熟未受精卵は減数分裂を停止して、受精を待つ。脊椎動物では、MAPK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)経路とよばれるリン酸化カスケードが、受精前の分裂周期の停止を維持の維持を担っていることが明らかになっている。しかしながら、昆虫ではこのリン酸化カスケードの保存性や、この機構に関与する上流および下流の因子はその一部しか解明されていない。昆虫におけるこの機構の解明は、受精や発生開始という重要な生命現象の理解とともに、人工授精法などの生殖制御技術の確立につながる。そこで本研究では、人為的に発生を開始させることができるカイコを用いて、未受精卵の受精前の減数分裂停止の機構に関与する遺伝子を同定し、その制御カスケードを明らかにする。 はじめに、カイコでもMEK-MAPK経路が関与しているかどうかを明らかにするために、カイコのゲノムデータベースおよび入手可能な鱗翅目のゲノム配列などから、MEK-MAPK経路の上流のタンパク質キナーゼ(MAPKKK)であるMosタンパク質ホモログの探索を行った。ミツバチなどの膜翅目、コクヌストモドキなど甲虫目、キイロショウジョウバエなどの双翅目では、Blastによる相同性検索を用いてMos遺伝子ホモログを同定することが可能であったが、カイコをはじめ鱗翅目昆虫においては見つけることができなかった。鱗翅目は、MAPK経路を制御するタンパク質が別のタンパク質と置き換わっている可能性が考えられる。そこで、未成熟卵で蓄積されているMAPKKK様のリン酸化タンパク質があるかどうか調べるために、カイコ卵巣の次世代シーケンスを用いたde novo トランスクリプトーム解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、次世代シーケンサーの普及により、さまざまな目に属する昆虫の遺伝情報が明らかになってきており、これらを利用することでそれぞれの目には特徴があることがわかってきた。本研究でもカイコだけではなく、いくつかの鱗翅目昆虫のゲノム情報をもとに、動物に普遍的に保存されているMAPK経路を制御する遺伝子Mosの保存性について調べることができた。その結果、驚くべきことに、いずれの鱗翅目昆虫でもMos遺伝子ホモログを見つけることができなかった。鱗翅目ではMos遺伝子を失ってしまったために、異なる因子による制御を採択せざるを得なかったのかもしれない。一方で、双翅目のキイロショウジョウバエにおけるMosによるMAPK経路の制御は卵細胞周期停止の制御に必須でないことが分かっており、他の因子の存在が示唆されているが、未だ不明なままである。このように完全変態昆虫の膜翅目、双翅目、鱗翅目では、細胞周期停止の機構に相違点があることが分かった。鱗翅目におけるこの機構の解明のため、前年度中にカイコの卵巣の全RNA解析を行った。計画通りに未成熟卵に蓄積されるリン酸化タンパク質遺伝子をいくつか見いだすことができたので、今年度はこれらの遺伝子機能解析を行う。実施する主な研究は以下のようなものである。はじめに、リン酸化タンパク質遺伝子の発現部位などをRT-PCRやin situ 法により調べる。つぎに、TALENによる突然変異個体の表現型解析や、トランスジェニックカイコの作出などによる遺伝子機能解析を行う。これらの実験を行い、鱗翅目の未受精卵の細胞周期停止を担うリン酸化タンパク質遺伝子の同定や制御機構を明らかにする研究の基盤を整えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に同定したリン酸化タンパク質遺伝子の発現特異性について、RT-PCRやin situ ハイブリダイゼーションにより調べる。つぎに、これらの遺伝子をコードするゲノムの領域を同定する。さらに、この領域の欠損を誘発するようなTALENを作成し、カイコリン酸化タンパク質遺伝子のノックアウト系統作出を試みる。ノックアウト個体が致死であり、その後の解析が困難な場合も想定される。TALENによる遺伝子機能解析が困難な場合は、トランスジェニックRNAi法により遺伝子機能解析を行う。具体的には、標的遺伝子のヘアピンRNAを発現するようなトランスジェニックカイコを作成し、遺伝子抑制を試みる。 また、カイコリン酸化タンパク質や他の生物のMosタンパク質の恒常的活性型遺伝子を導入した組換えカイコ系統を作出する。この遺伝子の発現は、GAL4-UASバイナリシステムを用いて任意の組織、時期で発現誘導できるようにする。先に作出した遺伝子欠損または抑制系統の表現型と比較し、カイコ卵成熟の過程におけるリン酸化タンパク質がどのように機能しているかを調べる。さらに、異なる目に属する昆虫のMeta-I停止に関与する遺伝子や機構を比較し、昆虫におけるMeta-I停止機構におけるリン酸化カスケードの保存性について考察する。 将来的な研究のために、リン酸化カスケードの下流因子について探索を行う。下流に存在するp90Rskはカイコでも存在が確認できたので、CSFの構成因子であるか確かめる。また、停止の解除、受精、発生開始に雄由来の物質がどのように関与するのか調べる目的で、雄の付属腺におけるmRNA解析を行う予定である。
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