2013 Fiscal Year Annual Research Report
骨髄増殖性腫瘍の急性骨髄性白血病への進展機構の解明と新規治療法確立への応用
Project/Area Number |
25893047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
籠谷 勇紀 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70706960)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 骨髄増殖性腫瘍 / 急性骨髄性白血病 / JAK2V617F / リポカリン-2 / DNA損傷 / 活性酸素 / 鉄過剰 / p53 |
Research Abstract |
本研究ではJAK2V617F変異陽性の骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasm: MPN)細胞が引き起こすパラクラインDNA損傷のメカニズムを明らかにすることであったため、当初の研究計画通り、まずはJAK2V617F変異陽性細胞で高発現となっている液性因子をコードする遺伝子を8個絞り込んだ後、定量PCRにより正常細胞との発現比較を行いこのうち6つの遺伝子は変異陽性細胞での発現亢進が再現性を持って見られた。次にこれらのshRNAベクターを作製し、JAK2V617F変異を導入したマウスの血液細胞セルラインである32D cellに導入した上でパラクライン現象の変化を観察した。この結果リポカリン-2(Lipocalin-2)という遺伝子をノックダウンした際に正常細胞へのDNA damageが有意に軽減したことから、同因子が原因物質であることが考えられた。 逆にリポカリン-2の組み換えタンパクを造血細胞に添加すると、同細胞の活性酸素濃度が有意に上昇することがわかった。その後リポカリン-2による活性酸素濃度上昇のメカニズムを調べ、同因子が細胞内の鉄輸送に関わることに着目し、投与により細胞内鉄濃度が上昇し、これが鉄過剰による酸化ストレスの惹起につながることがわかった。 さらに、DNA damageの副反応としてp53経路の活性が亢進し、細胞の増殖はむしろ抑制される減少を見出した。実際に、p53ノックアウトマウス由来骨髄細胞にリポカリン-2を加えても増殖抑制は起こらないことから、同経路のDNA damage応答における役割が明らかとなった。従って白血病発症前のMPN段階では、リポカリン-2の分泌はむしろMPNクローンの増殖に有利に働くことがわかり、同物質のMPN病態における深い関わりが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究ではJAK2V617F変異陽性の骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasm: MPN)細胞がパラクライン作用で正常細胞にDNA損傷を引き起こすという興味深い知見から、そのメカニズムの解明を目指している。JAK2V617F陽性細胞で発現が亢進している分泌タンパクをコードする遺伝子のshRNAベクターを作り、DNAダメージ誘発作用を網羅的に調べたところ、遺伝子Lipocalin-2(Lcn2)のノックダウンによりパラクラインDNAダメージが有意に消失するという結果から、同タンパクを原因物質として突き止めることができた。またDNAダメージを引き起こす具体的なメカニズムの探索を次の目標としていたが、これについても細胞内鉄貯留による細胞内活性酸素濃度が上昇することと関連づけて証明することができた。 またLipocalin-2の及ぼす副次的効果として、正常造血細胞とMPN細胞とで感受性が異なり、正常細胞の細胞増殖を抑制する方向に働くことから、むしろMPN細胞の増殖に相対的優位性を与えるという興味深い知見が得られた。これは当初予想していなかった方向への研究の進展であり、今後Lcn2ノックアウトマウスを使用した移植実験によりLcn2のMPNクローン増幅へ及ぼす影響を検証する予定としている。またDNAダメージにより増殖抑制が起こる機序についても、p53経路活性と結びつけて明らかにすることができた。以上より、当初予定していた以上の研究成果の発展を果たせたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに、Lcn2の効果をin vivoで検証するために、同遺伝子のノックアウトマウスを入手することができた。JAK2V617F遺伝子を同マウス由来の骨髄細胞に導入し、同系統のマウスに移植することで、MPN発症の程度が野生型マウス使用時と比較して弱まるかどうかを確認する。同様にp53経路が正常造血細胞で生じる増殖抑制に重要であることがわかったので、p53ノックアウトマウスをレシピエントとして用い、上記の移植実験を行う。また前年度は施行できなかった、MPNからのAML進展モデルの作製は引き続き目指す。さらに本年度では、MPN患者検体を用いて、同因子の分泌能をELISAにより測定する。これに加えて白血病発症リスクについての臨床情報からの検討も行う。MPNのうち、特に骨髄線維症で白血病発症能が圧倒的に高いことが知られているため、同因子の分泌能が,真性多血症や本態性血小板血症と比較して高いかどうかに注目する。
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Research Products
(3 results)