2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25893256
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
町田 光世 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60468692)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | SNP解析 / 劣化DNA / DNA損傷 / 個人識別 |
Research Abstract |
法医学では一般的にshort tandem repeat領域(STR)を用いて個人識別を行っているが、曝露された環境や保存状態の悪化からDNAの断片化が起こり、従来のSTR法では解析不可能となることが大きな問題となっている。近年では遺伝子増幅サイズが短くても検出可能な一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms; SNPs)解析が法医学分野でも注目されつつあるが、現段階ではSNPs解析の識別能力がSTR解析と比べて低いために利用頻度は極めて少ない。そこでDNA損傷を受けにくい領域に存在するSNPsに着目し、従来の手法では解析不可能な劣化したDNA試料からでも個人識別可能なSNPsマーカーを探索することを目的とした。 前年度は紫外線によるDNA劣化プロセスに着目し、人工的に紫外線を照射したDNAの経時的変化についての実験を行った。試料としてボランティアの口腔上皮細胞を採取し(n=11)、DNA抽出精製後に紫外線を経時的に照射した(5、15、30、60、120分間、対照群は紫外線照射なし)。それらを劣化DNA試料として、既報の24種類のプライマーによりDNAシーケンス解析することで各照射時間群の比較を行った。その結果、(1) 紫外線照射120分で検出可能なSNPs数が対照試料に比べ有意に減少した。(2) 120分間の紫外線照射によってアデニンが有意に脱落する傾向が見られた(p<0.05)。(3) DNA修復酵素を用いて正しいSNPsに修復されるかを調べた結果、約30%しか正しいSNPsへと修復されなかった。以上のことから、試料中のDNAが紫外線に長時間曝露されると、既報のSNPs部位において塩基置換や脱落が生じてDNA修復が困難になることが示唆された。従って本年度は、更に紫外線の影響を受けにくいSNPs領域を特定する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度は、紫外線によるDNA劣化がどの程度SNPs部位に影響を与えているかについての情報がなかったため、新規SNPsマーカーを探索する前に既報のプライマーを用いて予備知識を得ることにした。 本研究では、ボランティアの口腔上皮細胞からゲノムDNAを抽出した後にPCR反応を経てDNAシーケンス解析を行うことが主な作業である。比較的容易な操作なので問題はないと思われたが、以下の点に関して多くの時間を必要とした。(1) PCR反応について参考文献の条件に従い操作を行ったが、増幅されなかったりPCR産物量が少なかったりしたので、最終的に独自の至適条件を決定した。(2) 従来のエタノール沈澱法でPCR産物を精製しているため、多くのサンプルを処理する作業に時間を必要とした。(3) 本研究では紫外線によるDNA劣化試料のSNPs部位だけではなくPCR産物全体のシーケンス情報も必要なので、通常のPCR反応とDNAシーケンス解析を行った。それ故スループットが低下してしまい多くの時間を費やした。現在は上記の条件に従い順次作業を進めている。 本研究で明らかになった紫外線によるアデニン塩基の脱落は興味深い結果であり、今後新たなSNPs部位を調べる際にアデニン以外の塩基に注目するとDNA損傷を受けにくいSNPs領域の早期発見につながる可能性が高い。また現在分析中であるが、DNA修復酵素で修復されやすいSNPs領域やその領域内におけるSNPs部位前後のシーケンスの特徴について知見を得ることは、劣化DNAにおいて新たなSNPs領域を探索する上で重要な情報になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は前年度の結果を踏まえながら、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法を用いて、紫外線によるDNA損傷前後、DNA修復前後のAFLPバンドパターン変化を検出することで紫外線照射によってどのSNPs部位が影響を受けにくいのかを調べる。得られたDNAを制限酵素で切断後、アガロースゲル電気泳動でバンドパターンを検出する。例えば、対照試料とDNA損傷後の試料を比較すると、損傷を受けたことにより変化をするバンドが検出される。同時にDNA修復前後の試料の比較を行うことで、修復によって対照試料と同様のパターンに戻るバンド、損傷時と同様のパターンを示すバンド、新たに検出されるバンドが存在すると推察できる。その中から各条件で共通に見られるバンドを調べる。このように、損傷を受けなかったDNA断片が既存のSNPデータベースのどの領域に相当するかを示すために、まず始めに各条件における共通のAFLPバンドからDNAを抽出する。各バンドから抽出したDNAをプラスミドにクローニングした後、単離したクローンを精製してシーケンスを行い、目的のバンドの塩基配列を明らかにする。そして、SNPsデータベース検索によりその塩基配列内に存在するSNPsが既存および新規の部位かを確認する。 以上、本年度も引き続きDNA損傷を受けにくい領域内に存在するSNPsについての知見を得ることが目標である。
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