2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25935004
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Research Institution | 東北歴史博物館 |
Principal Investigator |
及川 規 東北歴史博物館, 学芸部, 上席主任研究員
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 被災資料 / パリレンコーティング |
Research Abstract |
東日本大震災では多くの文化財が被災し, 洗浄, 塩分除去, カビの除去など様々な保存処置が施されている。しかし過剰な処置は文化財自体を傷める場合があり, 救出を目的とした行為が逆に文化財の毀損をまねいてしまう可能性も否定できない。文化財の救済総量の最大化のためには, 汚損状況に応じた必要最小限の保存処置の方法と程度を把握することがきわめて重要である。一方, 「被災した」ということ自体が歴史的な価値を有し, それが資料となりうるという観点もある。このような問題を背景に, 水損紙資料の保存処置とその影響, および被災した状態の固定法について検討した。 ■被災紙資料の保存処置とその影響 : ろ紙に培養液を含浸させ放置しカビを発生させたものを検体, 過酸化水素水, 次亜塩素酸ナトリウム水溶液, 酸素ナノバブル水を処置薬剤(以下, 薬剤)とした。薬剤に検体を浸漬し, 薬剤濃度・浸漬時間と効果(カビ痕除去, 殺菌)について調査した。殺菌効果は浸漬時間30分で全薬剤で認められた(濃度は, 次亜塩素酸ナトリウム水溶液0.05%以上, 過酸化水素水1%以上, 酸素ナノバブル水原液)。カビ痕除去効果は, 浸漬時間30分で, 過酸化水素水(10%以下), 酸素ナノバブル水(原液)では認められなかったが, 次亜塩素酸水溶液(0.05%以上)で認められ, 従来法より低濃度で効果がある可能性が示唆された。資料自体への影響は目視では認められなかったが, 長期的な経過観察が必要と考える。 ■被災した状態の固定法 : 鉄片を塩水および塩化鉄(III)水溶液で錆化させたものを検体とした。検体をパリレンコーティング(パラキシリレンモノマーを真空中, 試料表面で重合させ均一な被膜をつくるコーティング技術)により固定化した。錆化した質感をあまり喪失することなく固定化された。本報告時点ではその状態が維持されているが, 今後, 長期的な経過観察が必要と考える。
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