2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26000003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中畑 雅行 東京大学, 宇宙線研究所, 教授
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Project Period (FY) |
2014 – 2019
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Keywords | ニュートリノ / 超新星爆発 |
Outline of Annual Research Achievements |
超新星背景ニュートリノの観測に向けて、スーパーカミオカンデ(SK)のタンク水にガドリニウム(Gd)を溶解し、逆ベータ反応の際に生成する中性子をGdの捕獲ガンマ線によって同時計測するのが本研究の目的である。超新星背景ニュートリノは宇宙初期から起きてきた超新星爆発からのニュートリノであり、それを捉えることによって宇宙の物質生成の歴史、平均的な超新星ニュートリノのエネルギー分布を探ることができる。本年度は、SKタンクを開けて水漏れを止めるための改修工事をおこなった。Gdは法的な環境基準値が与えられている物質ではないが、SKで研究を行うことを近隣住民の方々に理解してもらうには環境中に漏れることがないようにしてから実験を開始する必要がある。SKタンクはSK実験開始当初から一日当たり約1トンの水漏れがあった。本年度おこなった改修工事では、タンクの壁面を構成しているステンレス板の溶接接合部全線に渡って止水材料を塗布した。工事は平成30年6月から10月にかけて行われ、10月中旬から平成31年1月にかけて超純水の給水が行われた。平成31年2月初めに満水の状態で水漏れ試験を行った結果、有意な水漏れは確認されず、上限値として1日あたり0.017トン以下という結果を得た。これは以前の水漏れ量の200分の1以下であり、環境に与える影響を無視できるレベル以下まで下げることができた。また、本年度は純度の高い硫酸ガドリニウムの開発を継続し、次年度にGdを溶解するための準備を行った。本年度にタンクに超純水を給水する際にはGd溶解後に使用する予定だった水循環装置を使い、タンク水を汲み上げて超純水を循環させた。これにより今回はタンクが満水になった直後でもすぐにSKのニュートリノ観測を再開できた。また、これはGd水循環装置の試運転にもなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、平成28年度までにSKタンクを開けて水漏れを止める改修工事を行い、平成29年度にはガドリニウム(Gd)を溶かし始める予定であったが、SKを遠隔装置として使用している長基線加速器ニュートリノ実験(T2K実験)が海外の競合実験と競争関係にあること、止水補強工事に使用する止水材料の確認試験に時間を要してしまったことにより遅れが生じてしまい、実際にSKタンクの改修工事が行われたのが本年度(平成30年)になってしまった。しかし、純度の高いGdの製造方法の開発などGdを溶かすための準備は着実に進んでおり、平成31年度にはGdを溶かして観測が開始できると考えている。そこで、やや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(2019年度)にはGdを0.01%の濃度でSKタンクに溶かし、超新星背景ニュートリノの観測を開始する。以下、具体的な予定を記す。 0.01%の濃度のGdは「硫酸ガドリニウム」(実際には硫酸ガドリニウム八水和物(Gd2(SO4)3・8H20))の化学形でタンク水に溶かすが、50000トンの純水に対して約13トンの硫酸ガドリニウムを必要とする。2019年4月から製造を開始し10月か11月頃までに全量が納入される。 500kg単位で逐次納入されるが、その単位ごとに放射性バックグラウンドを測定し、条件を満たした製品であるかをチェックする。Gd用水システムは既に溶解装置部分、前処理装置部分は完成しているが、現在循環装置部分は60トン/時での循環用になっており、それを120トン/時で循環できるように機器の整備を10月までにおこなう。また、前処理装置、循環装置で使用する陰イオン交換樹脂(AJ4400タイプ)、陽イオン交換樹脂(AJ1020タイプ)も10月までに製造し、樹脂タンクに充填する。10月以降は数か月間、これらの樹脂を通してまずSKタンクの純水を循環させる。この試験によってGd水循環システムの完全な状態での試運転を行う。T2K実験の予定については、当初は5月、6月にニュートリノビームを出すはずであったが、一部電磁石の故障により、秋の11月、12月頃にデータをとることになりそうである。T2K実験期間中はSKタンクの水に変化を与えることはできないので、このT2Kビーム期間が終わった後に約1か月をかけてGdを溶かす予定である。その後、濃度が一様になるまで数か月間、水循環、装置のキャリブレーションを行い、超新星背景ニュートリノの観測を開始する。
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