2017 Fiscal Year Annual Research Report
超高圧力下の新物質科学 : メガバールケミストリーの開拓
Project/Area Number |
26000006
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 克哉 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2014 – 2018
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Keywords | 高圧力 / 超伝導材料・素子 / 金属物理 / 磁性 / 軽元素 / 高温超伝導 / 金属水素 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究項目A, BおよびCについてそれぞれの実績を列挙する。 項目A「水素をはじめとしたシンプルなシステムの超高圧物性」 1. 硫化水素を出発物質とした超伝導探索 硫黄と水素からの高温超伝導硫化水素(H3S)の直接合成に成功 研究協力者のドイツのEremetsらのグループは分子性結晶のH2Sを低温加圧することにより、200Kの高温超伝導硫化水素(H3S)を合成して報告したが、その構成元素である硫黄(S)と水素(H2)を加圧し、レーザー加熱を行うことでH3Sの合成を行い、高温超伝導相(bcc相)の生成を結晶構造と超伝導観測により初めて実現した。 2. 貴金属水素化物の超伝導探査 白金水素化物(PtH)の圧力下超伝導転移の発見 Ptと水素供給源のアンモニアボラン(NH3BH3)を高温高圧力下で加熱しPtHを合成に成功した、35GPaの圧力において、約12Kの超伝導転移を発見した。マイスナー効果の観測によって確認も行った。この研究過程において岩塩(NaCl)の水素化が観測され、従来は水素化しないと考えられていたNaClも高温高圧条件下では水素化することが初めて明らかになった。第一原理的に計算を行いその安定構造を検証し、実験結果を支持する結果が得られた。 3. 超高圧下物性の理論的解明 遺伝的アルゴリズムを用いて固体水素金属相の結晶構造探索を行い、400万気圧以上で出現する斜方晶構造を新たに予測した。超伝導転移温度は最大で350Kに到達した。アルゴンは600万気圧で金属化し、超伝導転移温度が希ガスで最高値となる12K(2600万気圧)まで上昇することを明らかにした。 項目B「超高圧合成による機能性物質のフロンティア」 1. 金属水素化物の高圧力下超伝導探索 東北大学折茂研究室から提供を受けた新規金属水素化物Li5MoH11の高圧力下での超伝導探索を行い、電気抵抗の減少によって超伝導転移を発見した。高圧力下での結晶構造はSPring-8をもちいて常圧下の構造とほぼ変化していないことを確認した。 項目C「革新的な高圧実験技術および理論計算手法の開拓」 1. 4メガバールを超える超高圧技術開発 トロイダル型のダイヤモンドアンビルを設計・作成し、圧力発生限界値を探索した結果、さらに形状の最適化が必要であることが分かった。2段式のダイヤモンドアンビルによる超高圧発生を試行しデザインを決定した。 2. 第一原理電子状態計算を用いたコンピュータ・シミュレーション開発 結晶構造探索手法を新たに考案し、ポテンシャルエネルギー面トレッキングと名付けた。これを第一原理電子状態計算手法と組み合わせて、テラパスカル領域の炭素に適用させ7つの結晶構造への相転移を得た。また、自己相互作用補正局所密度近似(SIC-LDA)が実行可能となり、これまでよりも精度の高い電子状態計算が行えるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
設定した研究項目(A, B, C)において設定した項目に基づいて研究を推進し、上記8に示した通り、ほぼ全ての項目において計画どおりに進展しているといえるため。 一方で、固体水素の金属化を目指した超高圧発生技術の確立には未だ到達していない。しかし、水素化物と単体水素における、高圧発生および高圧封止は、技術的には同等であり、安定な水素封止や水素供給源の利用により、その達成に為の実験技術開発を精力的に進めている。それらと同時に、水素化物の構造の同定をはじめ、水素化物の高温超伝導候補物質の提案など、理論的手法による探索の精度向上に取り組んでいるので、固体金属水素の実現にむけて順調に研究は進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
・安定な水素封止 水素が高圧下では試料室周辺の物質を水素化させる。試料室を形成する材料の選定をすすめ、CaSO4を採用したが、未だ成功率は高くない。さらなる材料選定を行う。 ・水素供給源の利用 硫黄の直接水素化に成功したので、水素供給源を試料と一緒にDAC内で加圧し、目的の圧力で赤外レーザー加熱を行なう手法を用いて他の水素化物の超伝導探索を加速させる。 ・水素化の進行過程のその場観察 硫化水素に代表される様に、その生成には水素化の過程(温度圧力条件等)が重要である。放射光X線回折測定によって高速検出器を用い、加熱中の試料の結晶構造変化をとらえる。 ・格子振動(超伝導性)の予測の精度向上 水素や水素化物ではフォノンの非調和効果が大きく、結晶構造安定性や超伝導性に大きく影響を及ぼしている。調和近似では精度の高い予測を十分に行えないので、非調和性を考慮できる自己無撞着調和近似法を使った計算に取り組む。 ・水素化物の高温超伝導候補物質の絞り込み 他の水素化物でも硫化水素と同様の高温超伝導が期待できるが、その組み合わせは膨大な数となるため、候補物質を絞り込む新技術の開発が研究の効率化に必要となる。これを解決するために、マテリアルズ・インフォマティクスに基づく物質探索のための基盤構築に取り組む。 次年度は最終年であるので、上記の推進を通してメガバール超高圧の物質研究を確立させる。 特に本研究は固体水素の金属化と室温超伝導の実現を掲げている。それと同等またはそれ以上に室温超伝導が現実味を帯びてきた、硫化水素関連物質は、本研究として注力すべきであると判断している。実際、当該物質の超伝導性は合成物内の水素がいわゆる金属水素の高温超伝導を含有したシステムを作り上げている可能性が示唆されており、本研究が目指す「メガバールケミストリー」が期待する事象そのものである。多くのエフォートを硫化水素系に集中させていく。
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Research Products
(63 results)
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[Journal Article] Lithium polyhydrides synthesized under high pressure and high temperature2017
Author(s)
Takahiro Matsuoka, Keiji Kuno, Kenji Ohta, Masafumi Sakata, Yuki Nakamoto, Naohisa Hirao, Yasuo Ohishi, Katsuya Shimizu, Tetsuji Kume, and Shigeo Sasaki
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Journal Title
J. Raman Spectrosc.
Volume: 48
Pages: 1222, 1228
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Divalent, trivalent, and heavy fermion states in Eu compounds2017
Author(s)
Y. Unuki, A. Nakamura, F. Honda, D. Aoki, T. Tekeuchi, M. Nakashima, Y. Amako, H. Harima, K. Matsubayashi, Y. Uwatoko, S. Kayama, T. Kagayama, K. Shimizu, S. Esakki Muthu, D. Braithwaite, B. Salce, H. Shiba, T. Yara, Y. Ashitomi, H. Akamine, K. Tomori, M. Hedo & T. Nakama
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Journal Title
Philos. Mag.
Volume: 97
Pages: 3399, 3414
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] RNiO_3(R : 希土類)の圧力誘起金属絶縁体転移とNiの電子状態2018
Author(s)
永澤延元, 池田修悟, 河口沙織, 平尾直久, 大石泰生, 平岡望, 浦崎真人, 池野豪一, J. A. Alonso, M. J. Martinez-Lope, M. M. Abd-Elmeguid, 小林寿夫
Organizer
日本物理学会第73回年次大会
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[Presentation] 価数不均化を示すRNiO_3(R : 希土類)のNiの電子状態2017
Author(s)
永澤延元, 池田修悟, 河口沙織, 平尾直久, 大石泰生, 平岡望, 浦崎真人, 池野豪一, J. A. Alonso, M. J. Martinez-Lope, M. M. Abd-Elmeguid, 小林寿夫
Organizer
日本物理学会2017年秋季大会
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[Presentation] 重い電子系化合物α-YbAIB_4の低温における圧力・磁場依存性ⅠⅠ2017
Author(s)
大浦桃子, 池田修悟, 増田亮, 小林康浩, 瀬戸誠, 依田芳卓, 平尾直久, 河口沙織, 大石泰生, 鈴木慎太郎, 久我健太郎, 中辻知, 小林寿夫
Organizer
日本物理学会2017年秋季大会
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[Presentation] XFELを用いた高配向性グラファイトの異常一軸圧縮その場観察2017
Author(s)
硲 崚, 尾崎 典雅, 片桐 健登, 松岡 岳洋, 宮西 宏併, 松岡 健之, 高橋 謙次郎, 瀬戸 雄介, 犬伏 雄一, 冨樫 格, 籔内 俊毅, 矢橋 牧名, 兒玉 了佑
Organizer
第58回高圧討論会
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[Presentation] 水素の金属化に向けた2段式ダイアモンドアンビルセルの最適化2017
Author(s)
武田 良介, 濱谷 俊希, 中本 有紀, 坂田 雅文, 清水 克哉, 境 毅, 入舩 徹男, 八木 健彦, 河口 沙織, 平尾 直久, 大石 泰生
Organizer
第58回高圧討論会
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