2016 Fiscal Year Annual Research Report
ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成
Project/Area Number |
26000008
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小江 誠司 九州大学, 工学研究院, 教授 (60290904)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日比野 高士 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10238321)
庄村 康人 茨城大学, 理工学研究科, 准教授 (50423900)
松本 崇弘 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90570987)
|
Project Period (FY) |
2014 – 2018
|
Keywords | 燃料電池 / 太陽電池 / 合成化学 / 酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の特筆すべき成果は、(1) 水素と一酸化炭素を両方酸化できる同一触媒の開発、(2) 水素と酸素を両方活性化できる同一触媒の開発、(3) 水素と水を両方酸化できる同一触媒の開発に成功したことである。これらの成果は既に投稿の段階にまでまとまっている。以下に具体的な内容について記載する。 (1) 一酸化炭素は、化学工業的に重要な化合物であるが、種々の化学反応において触媒の活性を損失させる触媒毒としても作用する。特に水素-酸素燃料電池では、水素に含まれる微量(ppmオーダー)の一酸化炭素が電極触媒の白金を被毒するため、超高純度の水素を必要とする深刻な問題を引き起こしている。本研究では、水素を酸化する酵素(ヒドロゲナーゼ)と一酸化炭素を酸化する酵素(一酸化炭素デヒドロゲナーゼ)に着目し、人工的にその機能と活性中心構造を模倣したモデル触媒を開発した。そのモデル触媒をアノードに用いた水素-酸素燃料電池と一酸化炭素-酸素燃料電池を開発し、いずれの電池も発電することを明らかにした。 (2) 固体高分子形の水素-酸素燃料電池は、家庭用電源や自動車に搭載され実用化されているが、その電極触媒には高価で枯渇資源の白金が用いられているため、固体高分子形燃料電池の実質的な普及のためには白金の代替触媒の開発が必須である。本研究では、水素と酸素を両方活性化できる非貴金属酵素(ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼ)を範とし、その活性中心構造を本質的に再現することで、水素と酸素を活性化できるニッケル・鉄モデル触媒の開発を達成した。 (3) 地球の誕生以来、系統発生論的な進化の過程では、水素を電子源としてエネルギーを生み出すヒドロゲナーゼがはじめに出現し、その後、水を電子源としてエネルギーを生み出す光合成が出現している。生命は、水素と水から電子を取り出す方法を獲得し、進化を経て現在の生態系に淘汰されてきている。本研究では、そのような進化の過程を鑑みて、水素と水を両方酸化できる分子触媒を開発し、燃料電池(ヒドロゲナーゼ)と太陽電池(光合成)の融合によるエネルギー変換に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下に記載するこれまでの研究成果を鑑みると、大変順調に進展していると言える。 平成26年度の主な成果は、酵素燃料電池の開発である。その酵素燃料電池の成果を、Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8895とプレスリリース(平成26年6月4日、「燃料電池の白金電極を超える水素酵素「S-77」電極の開発に成功(白金の637倍の活性)」)によって公表した(NHK、RKB毎日放送、讀賣新聞、西日本新聞、日経新聞、毎日新聞、産経新聞、日刊工業新聞にて報道)。また、本酵素燃料電池について、JST newsの特集記事にて紹介された(2014年9月号、「天然酵素をまねて人工酵素を開発 : 自然界の力で優れた燃料電池の実用化を目指す」)。 平成27年度の主な成果は、鉄に酸素が結合した世界初の錯体の開発である。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 724(表紙に採択)とプレスリリース(平成27年10月29日、「非貴金属分子触媒で水素の活性化に続く「酸素の活性化」に成功-白金フリー燃料電池の開発に応用-」)によって発表した(NHK、テレビ西日本、FBS福岡放送、朝日新聞、日経新聞で報道された)。 本年度の主な成果(「9. 研究実績の概要」に記載)は、いずれも世界で初めて達成したものばかりであり、国内外・研究分野を問わず極めて重要な成果と言える。これらの成果について、文部科学省において、世界トップレベル研究拠点プログラム10周年記念講演会「日本の科学の未来に向けて」で、「エネルギー問題に貢献する科学」という表題で講演した。 以上の研究成果は、小江(研究代表者、研究の総括)、日比野教授(研究分担者、電気化学測定)、庄村准教授(酵素の結晶化)、松本准教授(研究分担者、電極触媒調整)との密接な連携により達成されたものであり、現在までの進捗状況は、非常に順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本特別推進研究の研究課題「ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成」を達成するために、農学を基礎とするテーマ(ステージI : 自然の仕組みを理解する)、化学を基礎とするテーマ(ステージII : モデル触媒の構築)、実用への橋渡しのテーマ(ステージIII : 実用触媒の開発)の3段階に分けて研究を推進している。 特別推進研究の開始後、ステージIで、新規ヒドロゲナーゼと新規光合成系IIの探索と単離を行い、ステージIIで、それらのモデル錯体を開発をし、ステージIIIで、開発したヒドロゲナーゼモデル錯体を用いた新規燃料電池の開発を行ってきている。このように段階的に研究は順調に進展しているが、分子触媒を用いた燃料電池や太陽電池の電極触媒の性能や耐久性は未だ低い。今後は、これまでにない新しい手法で高い触媒活性と高い耐久性を持つ分子触媒を開発していく。また、水素一酸素燃料電池のカソード側で、最も問題となっている過酸化水素の問題に取り組む。過酸化水素は、酸素の不完全還元により生成し、電極とプロトン透過膜の劣化させるため、大きな問題となっている。そのような問題を解決するために、酸素と過酸化水素を両方還元できる電極触媒の開発を行う。
|
Research Products
(29 results)
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Book] 触媒2016
Author(s)
日比野高士
Pages
351-356
Total Pages
375
Publisher
触媒学会
-