2017 Fiscal Year Annual Research Report
多機能なコヒーレントナイキストパルスの提案とそれを用いた超高速・高効率光伝送技術
Project/Area Number |
26000009
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中沢 正隆 東北大学, 電気通信研究所, 教授
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Project Period (FY) |
2014 – 2018
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Keywords | 高速光伝送 / ナイキストパルス / デジタルコヒーレント / 周波数利用効率 / 光時分割多重 / パルス整形 / 超短光パルス / QAM |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はナイキストパルス伝送における高速化ならびに周波数利用効率拡大への取り組みとして、(a)ピコ秒パルス光源の光位相同期技術の開発とそれを用いた単一チャネル7.68 Tbit/s, 周波数利用効率9.7 bit/s/Hzの超高速・高効率コヒーレントナイキストパルス伝送、および(b)ノンコヒーレントナイキストパルス伝送を用いた単一チャネル10 Tbit/s伝送、の2つを中心に取り組んだ。 (a)に関しては、コヒーレントナイキストパルスを用いて単一チャネル3.84 Tbit/sの超高速伝送を10 bit/s/Hzを上回る高い周波数利用効率で実現した。具体的には、送信用光源だけでなく新たに受信用のLO光源としてもモード同期ファイバレーザ(MLFL)を用いることでナイキストパルスの高OSNR化を図った。さらに、送受信用MLFL間の光位相同期回路を新たに開発した。これらの要素技術により、9.7 bit/s/Hzの極めて周波数利用効率を有する単一チャンネル7.68 Tbit/s-150km超高速コヒーレントナイキストパルス伝送に初めて成功した。10 Tbit/s近い伝送速度で10 bit/s/Hzに迫る高い周波数利用効率を実現した前例はなく、これらの結果はナイキストパルスが極めて優れた伝送性能を有するパルスであることを示している。 一方(b)に関しては、ノンコヒーレントナイキストパルスのシンボルレートを1.28 Tsymbol/sから2.56 Tsymbol/sへ高速化することにより、単一チャネルで10.2 Tbit/sの超高速伝送を世界で初めて実現した。具体的には、超短ナイキストパルス(パルス幅 : 340 fs)の生成、ファイバ伝送路の4次分散まで考慮した高次分散の高精度な補償、信号光と制御光の間のドリフトを抑制した超高速光多重分離回路(ゲート幅 : 230 fs)、RZ-CW変換法による受信信号のS/N比の向上、等の開発に取り組んだ。その結果、単一チャネル10.2 Tbit/s信号の300km伝送に世界で初めて成功した。このときの周波数利用効率は2.5 bit/s/Hzであった。本実験ではデジタルコヒーレント伝送に見られるオフライン処理ではなく誤り率をオンラインで測定しており、超高速伝送を簡便な構成で実現できる方式として有用である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ノンコヒーレントおよびコヒーレントの両方式で、従来パルスでは困難であった領域へのシンボルレートの高速化、周波数利用効率の増大、ならびに伝送距離の拡大を実証した。具体的には、ナイキストパルスを用いて10 Tbit/s級の伝送速度により300kmの伝送距離ならびに10 bit/s/Hzに迫る高い周波数利用効率をノンコヒーレントおよびコヒーレント方式によりそれぞれ実証し、ナイキストパルスが極めて優れた伝送性能を有するパルスであることを明らかにしている。他機関から報告されている10 Tbit/s伝送は距離が29kmにとどまっており、且つセルフホモダイン方式による初歩的な実験しか報告されていなかった。また、その周波数利用効率は2 bit/s/Hz程度であった。それに対し、コヒーレントナイキストパルスでは10bit/s/Hzと周波数利用効率が著しく向上しており、当初想定していなかった超高速・高効率伝送を実現している。また同時に、ノンコヒーレントナイキストパルスでは伝送距離が300kmまで大幅に拡大しており、当初の計画を上回る超高速・長距離伝送を達成している。近年、国内外め光通信において数Tbit/s伝送への関心が高まる中、これらの成果はナイキストパルスが10Tbit/s領域の伝送速度を高い周波数利用効率で実現可能な唯一のパルスであることを示しており、実用性の観点からも有益な成果が得られている。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述した研究開発の進展状況を踏まえ、平成30年度はナイキストパルスが有する高い周波数利用効率の特徴を波長分割多重(WDM : Wavelength Division Multiplexing)伝送において実証するために、ナイキストパルスを多波長化し、最終目標である大容量WDM伝送実験を行う。従来のWDMでは、1チャネルあたりの伝送容量が低いため、数100チャネルの波長数を必要とする複雑なシステムになっていた。そこで、ナイキストパルスとその時分割多重により1チャネルあたりの伝送速度を1 Tbit/s程度に高速化し、少ない波長数で大容量伝送を実現する。想定する伝送距離に応じて、波長多重数と時分割多重数とを最適化したグラニュラリティの高い光伝送システムの実現を目指す。ナイキストパルスは1チャネルあたりの伝送速度を高速化しても長距離伝送を実現できる点が特徴であり、単一チャネル10 Tbit/sの伝送速度で300km伝送を実現できていることから、これを活かして1チャネルあたり1 Tbit/s級の伝送速度で2000~3000kmの長距離WDM伝送を目指す。その実証のために周回伝送路を構築する。 これらのWDM化と並行して、コヒーレントナイキストパルスにおける変調多値度の拡大と周波数利用効率のさらなる向上を目指す。これまでのコヒーレントナイキスト伝送では64QAMを用いているが、周波数領域等化法と呼ばれるデジタル信号処理技術、光増幅器の低非線形化と偏波分散(PMD)の低減、DAC, ADCの高速化と分解能の拡大により、128値以上のQAM伝送を目指す。これにより10 bit/s/Hzを上回る周波数利用効率が実現可能となる。またノンコヒーレントナイキストパルス伝送においても、現状では周波数利用効率が2.5 bit/s/Hz程度にとどまっているが、ナイキストパルスの帯域を規定するロールオフ率というパラメータをa=0.5から0まで低減させることにより、4 bit/s/Hz近い周波数利用効率の実現を目指す。これらの高効率化の取り組みによりWDMナイキストパルス伝送のさらなる大容量化が期待される。
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