2017 Fiscal Year Annual Research Report
脊椎動物の季節感知システムの設計原理の解明とその応用
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26000013
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉村 崇 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 教授
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Project Period (FY) |
2014 – 2018
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Keywords | 光周性 / 概日リズム / 季節繁殖 / 合成化学 / 畜産学 / 生理学 / ゲノム / スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトとは異なり、エアコンや衣服を持たない動物は毎年繰り返し訪れる環境の季節変化に対して、より良く適応するために、光や温度などの外的変化を感知し、繁殖、渡り、冬眠などの生理機能や行動を制御している。このような動物の季節変化については、2300年以上前のアリストテレスの著書「動物誌」にも詳述されているが、その仕組みは謎に包まれていた。本研究では様々な動物の持つ洗練された能力に着目することで脊椎動物の季節適応機構の設計原理を解明することを目標としている。また季節適応を制御する革新的機能分子を創出することで、動物の生産性の向上やヒトの季節性疾患の克服を実現することを目指している。 前年度までに、異なる緯度に由来し、季節応答の異なるメダカ集団から作出したF2世代を用いて量的形質遺伝子座(QTL)解析を完了していた。その後、関連解析を実施して候補遺伝子をいくつか絞り込み、機能解析を行っている。また、メダカを短日条件から長日条件に移した際の時系列サンプルを用いて、トランスクリプトーム解析を実施した結果、メダカの光感受性と色覚が季節に応じてダイナミックに変化していることを明らかにした(Nature Communications, 2017)。冬季にうつ病を発症するヒトの冬季うつ病においても、うつを発症する際に光感受性が低下することが報告されており、メダカを使った研究から冬季うつ病について理解が進むことが期待された。また、冬季うつ病を含む様々な精神障害の患者においては概日時計に異常をきたしていることが知られている。したがって、概日時計を調節する分子を開発することでヒトの冬季うつ病や動物の季節繁殖を制御することが可能になると期待されている。そこで既存薬ライブラリーのスクリーニングを行ったところ、細胞レベルで体内時計の周期を調節するとともに、混餌投与によって体内時計の周期を調節する薬を発見することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
臨界日長の地理的変異から明らかにする臨界日長の設計原理の解明については、当初の計画通り、表現型の異なる複数の集団の全ゲノムリシークエンスを行い、関連解析を実施した。その結果、興味深い候補遺伝子をいくつか見出すことに成功したため、その遺伝子の機能解析を行っている。また、トランスクリプトーム解析の結果、冬と夏では網膜のロドプシン類の発現が劇的に変化していることが明らかになった。ノックアウトメダカと、コンピュータグラフィクスを駆使した行動解析によって、メダカは季節によって色覚が大きく変化し、冬と夏では全く異なる景色を見ていることを明らかにした。ヒトにおいても色覚が季節によって変化すると報告されていたが、その仕組みは未解明であった。ヒトの季節性感情障害(冬季うつ病)の患者はうつを発症する冬に網膜の光感受性が低下することが報告されている。これらの発見に基づき、謎に包まれていたヒトの冬季うつ病の発症機構について理解が進むことが期待される。また、「革新的機能分子の創出と季節適応の制御」については、季節感知に必須の役割を果たす概日時計に着目して研究を行った。その結果、既存薬の中から59個のヒット薬を発見することに成功した。さらに混餌投与によって動物において個体レベルで体内時計を調節できることを明らかにした。また、メダカの社会性が冬に低下することを見出し、これを表現型として化合物のスクリーニングを行ったところ、冬季に社会性を向上させる分子を発見している。
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Strategy for Future Research Activity |
「臨界日長の地理的変異から明らかにする臨界日長の設計原理の解明」については、見出した候補遺伝子について機能解析をさらに進めて、原因遺伝子を明らかにすることを目標とする。 「温周性、光周性の設計原理の解明」については、メダカをモデルとして冬から春を感じる仕組みと、夏から秋を感じる仕組みの両面から検討を進めている。トランスクリプトーム解析によって単離した遺伝子については、ゲノム編集技術を用いて作出したノックアウトメダカの表現型の解析を中心に機能を明らかにする。 またメダカのトランスクリプトーム解析によって光感受性、色覚が季節に応じて大きく変化することが明らかになったが、ヒトにおいても季節によって光感受性に変化があることが報告されていることから、メダカで明らかにした仕組みが哺乳類にもあてはまるかを、マウスをモデルとして詳細に検討する。 複雑な精神障害を理解するためには、タンパク質、細胞のレベルだけでなく、個体レベルの解析も必須である。ゼブラフィッシュやメダカなどの小型魚類においては神経伝達物質やその受容体、トランスポーターなどが高度に保存されている他、ヒトの精神障害の薬がヒトと同じシグナル伝達系を介して遊泳パターンを制御することが知られていることから、小型魚類は精神障害の優れたモデルとして注目されている。我々はメダカの行動が季節によって異なることに着目し、メダカの成魚を用いて冬季うつ病のスクリーニングを実施した。その結果、メダカの冬季うつ病様の行動を改善する化合物の発見にも成功している。それらヒット化合物の作用機序について解析を行い、冬季うつ病の発症機構の解明につなげる。
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Research Products
(24 results)
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[Journal Article] Identification of circadian clock modulators from existing drugs2018
Author(s)
Tamai TK, Nakane Y, Ota W, Kobayashi A, Ishiguro M, Kadofusa N, Ikegami K, Yagita K, Shigeyoshi Y, Sudo M, Nishiwaki-Ohkawa T, Sato A, Yoshimura T
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Journal Title
EMBO Molecular Medicine
Volume: 10
Pages: e8724
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Dynamic plasticity in phototransduction regulates seasonal changes in color perception2017
Author(s)
Shimmura T, Nakayama T, Shinomiya A, Fukamachi S, Yasugi M, Watanabe E, Shimo T, Senga T, Nishimura T, Tanaka M, Kamei Y, Naruse K, Yoshimura T
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 8
Pages: 412
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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