2017 Fiscal Year Annual Research Report
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26220703
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大橋 隆哉 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (70183027)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 譲 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (10135296)
山崎 典子 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (20254146)
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Project Period (FY) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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Keywords | ダークバリオン / 銀河間物質 / 宇宙の大規模構造 / X線分光 / X線天文学 / 科学衛星 / マイクロカロリメータ / X線望遠鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は研究の4年目であり、TESカロリメータおよび冷却系の開発、X線反射望遠鏡の開発といった課題に取り組んだ。本研究としてはSuper DIOSを2030年ごろに打ち上げることを目指して、DIOSと同じサイエンスを目指しつつやや力点を変えて開発を行なった。 「ひとみ」のマイクロカロリメータSXSは軌道上で4.9 eVというすばらしいエネルギー分解能を実現し、その科学成果が論文として発表された。特にペルセウス座銀河団のガスの運動状態の制限、共鳴散乱を用いたガスの構造に対する制限、中性鉄輝線が教える活動銀河周囲のガスの状態、Cr, Mn, Niなどの元素組成の初めての正確な測定などは、SXSの優れた分光性能を示す歴史的な成果である。 TESカロリメータ素子の開発としては、積層配線を用いた多素子のカロリメータの基礎的な製作を進めた。また、産総研と協力しマイクロ波読み出しの開発を進めた。これは将来的に数万ピクセルものTESカロリメータの信号読み出しを可能にする技術であり、産総研との協力で開発にはずみがつきつつある。このほかK中間子原子からの特性X線をTESカロリメータを用いてJ-PARCでの加速器実験で図る計画も進めている。 Super DIOSでは角分解能10秒角を得るために2回反射望遠鏡とするが、そのための新たな検討を名古屋大学を中心に始めている。米国やヨーロッパでは10秒角レベルの技術があるため、いかに軽量化するかという方向で、国際協力の検討を進めている。 一方、ダークバリオンの観測により宇宙の進化へどいういう制限がつけられるかを評価するため、イェール大学、東大、奈良女子大などと協力して、宇宙の構造形成と、それを新しいDIOSで観測し、エネルギースペクトルを解析するという一連の流れのシミュレーションに着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
DIOS衛星は2022年ごろの打ち上げを目指していたが、「ひとみ」の姿勢異常とそれを受けたX線代替機の2021年度打ち上げへ向けた実施のために、DIOSの早期実施は不可能となった。このため、角分解能やTESカロリメータの素子数を増強した形 (Super DIOS)で、打ち上げ時期を2030年頃として新たな開発や衛星設計を行うこととする。達成状況について以下に述べる。 1. 「ひとみ」の科学成果:「ひとみ」のマイクロカロリメータSXSは姿勢異常となるまでの1ヶ月間、軌道上で正常に動作し、エネルギー分解能4.9 eV (6 keVに対するFWHM)を実現した。特にペルセウス座銀河団中心部についてX線分光による新たな成果を数多く出した。鉄族元素のアバンダンスからIa型超新星のモデルを制限したほか (Nature)、高温ガスの乱流の速度を制限したり、共鳴散乱効果からガスの構造を制限するなどの結果を出した。科学論文はPASJ特集号として、また技術関係はJATISの特集号として、全体で30編以上が出版される見通しとなっている。 2. TESカロリメータと読み出し系の開発:日本独自のTESカロリメータの製作と読み出し系の開発を進めた。数万ピクセルのTESカロリメータへ向けて、マイクロ波読み出しという新しい方式の開発を産総研や宇宙研と協力して進めた。またTESカロリメータを用いたJ-PARCでのK中間子実験にも参加している。日米協力を軸に開発することでNASAグループと議論を進めている。 3. X線望遠鏡:Super DIOSでは10秒角という分解能が要求されるため、望遠鏡の基本性能をシミュレーションで確認するほか、米国グループとも協力してX線望遠鏡の検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Super DIOSの実施は2030年へ延期するが、X線代替機 (XARM) の実現 (2021年度) は、冷却系や熱設計などを含めて重要なステップとなる。今後は、X線代替機の製作を進めながら、Super DIOSへ向けた、衛星システム、TESカロリメータ、X線望遠鏡の開発を行っていく。 1. X線代替機の製作:「ひとみ」で正常に動作したとはいえ、ゲートバルブを開けなかったことや、X線代替機で一部設計変更するなど開発項目が発生している。信頼性の高い低雑音冷凍機はSuper DIOSへ向けての重要な技術である。本研究としても冷却系を中心としてX線代替機の製作を進めていく。 2. Super DIOSによるサイエンスの検討:イェール大学、東大、奈良女子大などと協力し、ダークバリオン観測の新しいシミュレーションを進める。角分解能が大幅に向上することで、ダークバリオンの検出感度や信頼性があがる一方、どこまでの角分解能が本当に必要であるかは十分検討すべき課題である。シミュレーションによりSuper DIOSで達成可能なサイエンスを定量的に評価しるる、他のサイエンスの検討も進める。 3. TESカロリメータの開発:マイクロ波読み出しの開発を首都大、JAXA宇宙研を中心に、産総研グループとも共同で進める。またJ-PARCでのK中間子原子の測定に参加し、TESカロリメータによる科学成果を得る。 4. X線望遠鏡の開発:角分解能10秒角の望遠鏡を達成するために、名古屋大学を中心に、米欧との国際協力も視野に入れながら開発を進める。 5. Super DIOS衛星へ向けた検討:さまざまな検討をもとに、Super DIOSの概念設計を行い、打ち上げロケットや衛星の規模を明確にする。年度内に、Super DIOSへ向けたResearch GroupをJAXA宇宙研の理学委員会の下に設置する提案を行う。
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Research Products
(27 results)