2014 Fiscal Year Annual Research Report
熱力学的極限に挑む断熱モード磁束量子プロセッサの研究
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26220904
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
吉川 信行 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70202398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤巻 朗 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20183931)
日高 睦夫 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (20500672)
山梨 裕希 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70467059)
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Project Period (FY) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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Keywords | 超伝導材料・素子 / 先端機能デバイス / 低消費電力 / 超高速情報処理 / デバイス設計・製造プロセス / 超伝導回路 / ジョセフソン素子 / 集積回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大規模断熱モード磁束量子 (AQFP) 回路、位相制御型超伝導メモリならびに3次元Josephson集積回路プロセスの実現に向けて、各要素技術の確立を目指した。 横浜国大では、AQFP回路の大規模集積化に向け、論理ゲートの基本特性を明らかにした。論理ゲートの消費エネルギー、動作スピード、動作余裕度の関係を調べ、最適な回路パラメータを導いた。熱雑音を考慮し、配線長の増大に対して回路動作余裕度の関係を理論的、実験的に検討した。以上の検討結果に基づいて、セルライブラリを構築した。AQFP基本ゲートの回路パラメータの最適化とレイアウト設計、試作、評価を行い、AQFP論理ゲートのセルライブラリの基本セットを完成させた。また、セルライブラリを用いて1万接合規模のAQFPゲートアレイが広い動作余裕度で正常に動作することを示した。 名古屋大では、超伝導体/強磁性体/超伝導体(SFS)接合を基本構造とするメモリの実現に向け、強磁性薄膜の最適化を行なった。特性変化を起こしにくく、磁気特性を調節できる、PdNiを磁性材料として選択した。Niの原子パーセントを変化させ、異常ホール効果やSQUIDの磁場応答変化によって、PdNi薄膜の特性を調査した。その結果6.2at%以下では超常磁性、6.5at%以上では強磁性を示すことが分かった。また、PdNiを常伝導層としたジョセフソン接合は、臨界電流値のばらつきが十分小さく、集積回路に適用可能であることが分かった。 産総研では、多層化AQFP回路を実現するための3次元超伝導集積回路プロセスの主要要素となる2層のNb/AlOx/Nb接合作製プロセスの開発を行った。コンタクト以外の部分で下層のレイアウトと独立に上層のレイアウトを行うためには下層の高度な平坦化が必須となる。今年度は平坦化工程を最適化した4層Nb構造を作製し、良好な表面平坦性と接合特性を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
AQFP論理ゲートの基本特性の解明については、熱雑音を考慮したモンテカルロ回路シミュレーションに基づいて、論理ゲートの消費エネルギー、動作スピード、動作余裕度の関係を体系的に調べ、有限温度においても回路は低エネルギーで動作し、回路の誤動作確率は十分に小さくなることを示した。また、シャント抵抗を用いないアンダーダンプ型の接合を用いたAQFP論理ゲートは、従来のクリティカルダンプ接合を用いたAQFP論理ゲートに対して、消費エネルギーを更に20分の1に低減できることを示した。以上の成果は、AQFP回路を用いて更にエネルギー効率の高い論理回路が実現できることを示している。更にこれらの検討結果に基づいてAQFP基本ゲートの回路パラメータの最適化を行い、セルライブラリの基本セットを完成させた。また、セルライブラリを用いて1万ゲート規模のAQFP論理回路の動作実証に成功した。以上の研究成果は、大規模AQFP論理回の実証例としては世界初であり、当初の計画以上に研究を進展させることができた。 位相制御型超伝導メモリについては、平成26年度は、低温での利用に適したPdNi組成比の同定を主目的としており、これについては概ね達成できた。また、磁性ジョセフソン接合の作製法を確立し、ばらつき等集積化の問題点も評価しており、次のステップに向かう準備は整った。 3次元Josephson集積回路プロセスについては、平坦化したNb配線層の上に良好な特性のNb/AlOx/Nb接合を作製できることはNb9層プロセスで既に実証されているが、今年度に下層の平坦化が接合特性に影響を与えることなく行えることを確認できたことにより、目標とする3次元超伝導集積回路プロセス構築に向けて着実に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
AQFP論理ゲートの基本特性の解明については、大規模AQFP集積回路の実現に向けて、熱雑音を考慮した回路シミュレーションに基づいて回路の誤動作確率を調べ、基本ゲートセルの有限温度におけるエラーレートを調べる。また、基本ゲートのエラーレートを実験により明らかにし、シミュレーション結果との比較を行なう。これによりAQFP論理回路の高速動作の実証を行なう。そのために必要となるAQFP回路の出力信号を高速で検出するための超伝導増幅器の研究開発を研究項目に加える。また、既存の単一磁束 (SFQ) 回路とAQFP回路間で信号を伝達するインターフェース回路がまだ検討中であり、これらの研究開発を来年度は集中的に実施する。 位相制御型超伝導メモリを構成するためには、より小さなエネルギーでの書込み、読出しが求められる。加えて、メモリセルの小型化は、大容量化・低エネルギー化・高速化のすべてにおいて求められる。これらを念頭に、PaNiの組成比だけではなく膜厚も変化させながら、最適な臨界電流と磁気特性を有する磁性ジョセフソン接合の作製を試みる。 3次元Josephson集積回路プロセスについては、H26年度に開発した平坦化Nb/AlOx/Nbジョセフソン接合作製プロセスをさらに発展させ、ジョセフソン接合層を含むゲート層を上下二段に重ねた3次元超伝導回路プロセスを構築するとともに、このプロセスを用いてSFQ回路を二層化した3次元集積回路を作製するための課題抽出を行う。
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