2017 Fiscal Year Annual Research Report
Biological synchronization in natural environments
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26221106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
工藤 洋 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10291569)
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Project Period (FY) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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Keywords | フェノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
「生物の同調現象」として植物の応答を研究することにより、それにかかわるメカニズムの機能を自然条件下で理解することが目的である。時系列トランスクリプトーム解析を元に3つの研究課題を実施している。①新規に発見した‘生育終了’同調現象の制御因子を同定し機能を解析する。②複雑な自然状況下での遺伝子ネットワークの機能を理解する。③遺伝子発現の応答をバオイマーカーとして利用し、環境を推定する。 ①これまで選抜してきたシロイヌナズナ生育終了時期のミュータントラインから選んだ6ラインをリシーケンスし、SNP解析により、変異のある座位のリストを作成した。また、そのうち4ラインについて掛け合わせ実験を行いF1から種子を採取した。30年度にF2を分離させ、Mut-Seq法による責任変異の道程を行う予定である。 ②自然の複雑な状況における機能に焦点を当て、自然集団の時系列ヒストン修飾解析を実施している。ヒストン修飾(活性修飾H3K4me3と抑制修飾H3K27me3)について、鍵となる花成抑制因子FLCの2年間のデータをもとにモデリングを行い、H3K27me3が過去の転写状況を反映して制御されることを見出した。全ゲノムについては1ヶ月毎に1年間のデータを取得し、抑制型ヒストン修飾H3K27me3が多くの遺伝子で同調的の変化するという現象を発見した。この同調的変化現象は、より高次元のクロマチン構造を介した制御の存在を示唆している。 ③トランスクリプトームをバイオマーカーとし、植物を「環境測器」として利用する。バイオマーカー利用の対象をウイルス量とし、ウイルス接種・温度操作実験とを実施するとともに自然集団でのトランスクリプトーム解析の結果を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、生育終了の同調をもたらしている因子の同定(①)、複雑な自然条件下での時系列ヒストン修飾解析による機能理解(②)、トランスクリプトームのバイオマーカーとしての利用(③)を目指している。以下のように、当初の予定通り、進行している。 ①においては、分子フェノロジーに関する重要なコンセプトを定義し、連続播種実験による同調の定量を定式化した。生育終了という新規の同調現象をシロイヌナズナの複数系統で定量した。生育終了が遅れる変異体の1次・2次スクリーニングの結果、26系統を得た。選抜系統6系統のリシーケンスを実施するとともに、交配実験を行いF2世代を分離させる準備を行った。また、野生型のRNA-Seq, small-RNA時系列データを取得した。 ②においては、ハクサンハタザオの自然集団2年間のトランスクリプトームをモデリングした。10,000以上の遺伝子に季節変動という新規アノテーションを与えた。年間の日長と気温の位相差がハクサンハタザオの繁殖に重要であることを示した。フィールド・ChIP法を確立し、FLC遺伝子領域における2年間のヒストン修飾動態の数理シミュレーションにより、FLC遺伝子が気温の長期傾向にのみ応答するしくみとしてH3K4me3とH3K27me間のフィードバック制御の役割を示唆した。全ゲノム、H3K4me3・H3K27me3の季節動態データをChIP-Seq法により取得し、H3K27me3のゲノムレベルの同調的変化を見出した。 ③においては、トランスクリプト―ムとウイルス量を同時検出するデュアルRNA-Seq法を確立した。カブモザイクウイルス(TuMV)量が季節と同調して変動することを見出した。操作実験により、全身感染におけるTuMVの増殖・移動速度の温度依存性を検出した。また、感染・非感染個体間のトランスクリプトームデータから、ウイルス量の推定を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
①因子同定については、工夫した栽培実験で新規に発見された‘生育終了’の同調をもたらしている鍵因子を同定し、機能を解析することを目指して以下のことを実施する。選抜系統の原因SNPを探索・T-DNA挿入系統を用いた表現型評価実験(閉鎖系温室の利用)を継続して実施する。生育終了時に発現が変化する遺伝子・smallRNAの解析を実施する。選抜系統と野生型とのF2を栽培し、Mut-Seqを実施する。 ②機能理解については、自然の複雑な状況における機能に焦点を当てた自然集団の時系列ヒストン修飾解析を実施し、機能を理解することを目指して以下のことを実施する。自然条件化で得られたデータのモデリングによって示唆された機能を検証する操作実験を実施する。全ゲノム的染色体立体配置を調べるHi-c法でを導入し、同調的にヒストン修飾が変化する領域におけるクロマチンの3次元構造を解析する。Hi-c法では、クロマチン構造を保ったまま近傍の配列を結合し、次世代シーケンサで取得した情報により、3次元的近接度をゲノムワイドに再構築する。必要条件を設定可能な超音波DNA切断装置を29年度の追加措置により導入するこ戸ができた。 ③応答利用については、トランスクリプトームをバイオマーカーとし、植物を環境測器として利用することを目指して以下のことを実施する。ウイルス量を遺伝子発現から推定することを具体的な目標とした、宿主遺伝子発現によるウイルス量推定モデルの構築を行う。ウイルスに対する宿主応答が季節依存的に変化することが明らかとなったので、季節別のモデルを作成・比較した解析を実施する。
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Research Products
(26 results)