2014 Fiscal Year Annual Research Report
東シナ海陸棚域における基礎生産と物質循環を支配する物理・化学・生物過程の研究
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26241009
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松野 健 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (10209588)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
千手 智晴 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (60335982)
遠藤 貴洋 東京大学, 海洋アライアンス, 特任准教授 (10422362)
石坂 丞二 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (40304969)
張 勁 富山大学, 理工学研究部(理学), 教授 (20301822)
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20334328)
梅澤 有 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (50442538)
吉川 裕 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40346854)
郭 新宇 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10322273)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 乱流計測 / 亜表層クロロフィル極大 / 海底境界層 / 基礎生産 / 化学トレーサー / 乱流モデル / 生態系モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題のテーマの一つ目である表層および亜表層クロロフィル極大層(SCM)における基礎生産に関しては、本研究グループで過去に観測してきたデータ、特に数日間にわたる微細構造の繰り返し観測に基いた時系列データを用いて、鉛直混合による栄養塩のSCMへの供給が基礎生産に及ぼす影響を評価した。また、基礎生産に関わる植物プランクトンのサイズ組成に関して、長江希釈水の植物プランクトンの群集構造が他の海域よりも小型であることを確認し、そのサイズ組成を衛星で測定可能である植物プランクトンの吸収スペクトルを利用して推定する新しい方法を開発した。一方、表層における栄養塩の動態に関して、河川起源の溶存鉄と硝酸塩の基礎生産に対する寄与は、長江希釈水の影響を強く受けている西側海域に限られている可能性が示唆された。また、栄養塩が希薄な陸棚の外の表層でも、窒素固定生物によって、懸濁・溶存態有機物量が増加している海域があることが明らかとなり、これらの海域では、再生栄養塩の寄与は、N/P比の高い大気降下物由来の栄養塩供給が卓越する海域において、一次生産を支える重要な起源であることを明らかにした。 次に海底境界層内の混合強度の評価に関連して、2014年7月に対馬海峡南部において、5ビームADCPと乱流微細構造プロファイラを用いた時系列観測を行い、レイノルズ応力および乱流運動エネルギー散逸率の鉛直プロファイルを同時に、かつ日周潮の周期を超える約1日半にわたって計測することに成功した。また、海底付近の鉛直混合強度を、流速の鉛直分布の計測値から推定する手法を考案し、東シナ海陸棚上に適用した。その結果、海底境界層内での渦粘性係数を評価し、境界層上端で水平移流などの効果により力学バランスが変化していることが明かになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の1年目であり、7月に九州北西海域と東シナ海陸棚縁辺部において、亜表層クロロフィル極大層および海底境界層内の物質循環に関わる物理・化学・生物過程を把握するための観測を実施し、海水試料の1次分析を行うとともに、当該研究グループで過去に取得してきた各種観測データの解析を進め、一部については成果を学術誌に公表した。 海底境界層付近での乱流混合と懸濁物の巻き上がりをシミュレーションするため、LESモデルに粒子追跡のプログラムを組み込み、いくつかの試験実験やパラメターのチューニングなどを行った。一方、生態系モデルによる物質循環の評価を行う準備段階として、過去20年間のFRA-JCOPEの計算結果から、等深線(50m、100m、200m)を横切る岸向きと沖向きの流量を算出し、その空間分布と季節変化、経年変化を調べ、海底付近における岸向きの流量は200m等深線 から50m等深線にかけて、半分まで減少することなどがわかってきた。また、過去に得られた水温・塩分・溶存酸素および栄養塩の組成から、陸棚域の底層水塊がどのような起源を持つかを見積もり、黒潮中層水の影響が大きいことを示す結果が得られている。 データ解析に際しては、当初予定した研究協力者を事情により採用することができなくなったため、一部のデータについては1次処理のみが進められ、詳細な解析の進捗には遅れが生じたが、一方、数値実験による計画に関して、粒子追跡モデルと流体モデルの最適化を進めたことにより、計算時間が大幅に短縮でき、経費の節減につながるなど、計画以上に進んだ面もあり、観測データの取得状況も含めて、全体としては概ね予定通り進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降には、毎年実施予定の7月における長崎丸による観測に加えて、平成27年度秋の東シナ海および黒潮海域における白鳳丸観測航海など、本計画に関連する観測航海がいくつか予定されている。これらの観測を通じて、SCMの形成に寄与する鉛直混合と物質輸送をより精度よく評価するとともに、特に海底境界層における乱流強度と懸濁物の挙動に関する観測データを蓄積し、栄養塩の再生、低酸素水塊の形成に関与する物理過程を定量的に評価する。 過去に取得したデータの解析も含め、特に化学トレーサーによる水塊の起源とそれらの組成比に関する解析をさらに進める。また、特に海底境界層における乱流混合と粒子の再懸濁を評価するための数値モデルの実用化を進める。
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