2015 Fiscal Year Annual Research Report
魚類繁殖機構に及ぼす地球温暖化・気候変動影響の早期警戒指標の構築に向けて
Project/Area Number |
26241018
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 洋嗣 東京海洋大学, その他部局等, 助教 (10447592)
大竹 二雄 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20160525)
近藤 昭彦 千葉大学, 環境リモートセンシング研究セン, 教授 (30201495)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 地球温暖化 / 指標種 / 温度依存型性決定 / トウゴロウイワシ目魚類 / 耳石 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類耳石は、日周性の輪紋を刻みながら体長に比例して成長し、その化学組成が生息環境の水温と水質に影響される。この特徴を利用すれば、個体の年齢、日齢、孵化日のみならず、個体が生涯に渡り時系列的に体験した水温履歴を推定でき、過去に各個体が経験した異常水温と生殖障害の因果関係を明らかにすることが可能となると期待される。そこで2015年度は、本研究のモデル魚である南米原産ペヘレイO.bonariensisの耳石を用いた経験水温履歴推定技術の確立に取り組んだ。まず、アルゼンチンのチャスコムス湖にて捕獲した野生個体の耳石を、電子プローブマイクロアナライザで分析し、生息環境水温の指標となる元素の探索を行った。その結果、耳石内微量元素であるストロンチウム(Sr)量に明確な季節性が確認され、Sr値と捕獲時の環境水温との間には正の相関が認められた。これにより、耳石の日輪解析とSr解析を組み合わせることで、その個体が過去に経験した水温を推定することが可能であることが示された。さらに、耳石上のSr値を核から辺縁部まで線状に測定し、Sr値の増加のピークを夏、減少のピークを冬と推定した。このSr値の季節変動を利用すれば、捕獲時期からの逆算により、個体ごとの年級・孵化時期の推定ができ、ペヘレイ野生集団のより詳細な資源量調査が可能となった。 また、2014年度に確立したPCR法を用いたペヘレイの遺伝型性(XX, XY, YY)判別法により、野生集団における性転換個体および超雄の出現率調査を継続して行った(n=135)。その結果、アルゼンチンチャスコムス湖における2015年度の調査では、雄性転換個体(XX-精巣)が14尾(性転換率25.5%)検出されたが、雌性転換個体および超雄個体は検出されなかった。現在、前述の耳石を用いた経験水温推定技術を用いて、性転換と水温の因果関係を調査している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、地球温暖化と気候変動が魚類資源とそれを取り巻く生態系に与える悪影響を事前に予測するため、世界各地に分布し、なおかつ水温起因の生殖障害が生じやすいとされているトウゴロウイワシ目魚類に着目し、「魚類繁殖機構に及ぼす地球温暖化・気候変動影響の早期警戒指標の構築」を最終目的としている。これまでの研究から南米、東南アジア原産のトウゴロウイワシ目魚類であるO.bonariensisおよびH.tsurugaeの性決定機構が強い温度依存性を示し、両種において遺伝型性判別マーカーとして利用可能なamhy遺伝子を見いだした。さらに、O.bonariensisにおいては、実際に野生集団において、水温起因とみられる性転換個体及び超雄個体の検出に成功した。これらに加え、2015年度は個体レベルでの経験水温履歴推定技術の確立に取り組み、耳石の含有微量元素であるSr量から、野生個体の経験水温履歴推定の可能性を示した。以上、研究計画は概ね予定通りに遂行され、成果も得られていることから、研究は順調に進展しているものと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年度は性転換と異常水温の因果関係を明らかにするため、耳石微量元素(Sr等)を用いた個体レベルでの経験水温履歴推定技術の確立に取り組んだが、Sr量は塩分濃度等の他の環境要因の影響を受ける可能性があるため、今後その他の環境要因が耳石内Sr量に与える影響も複合的に調査する必要がある。また、調査対象種の生息エリアの水温を広範囲に監視するため、リモートセンシングによりサンプリング地点の水温を推定し、現地に設置されたデータロガーに実際に記録された水温との整合性を検証し、高精度にバリデートする。より性の温度感受性が高い指標種を探索するため、本研究の調査対象である残りのトウゴロウイワシ目魚類3属(Chirostoma属、Atherinella属、Atherion属)の生殖機能に及ぼす水温の影響に関する基礎的情報収集を行うとともに、遺伝型性判別マーカーの探索を行う。
|