2014 Fiscal Year Annual Research Report
作品誌の観点による大徳寺伝来五百羅漢図の総合的研究
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26244010
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井手 誠之輔 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (30168330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
板倉 聖哲 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00242074)
増記 隆介 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (10723380)
谷口 耕生 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 研究員 (80343002)
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, その他部局等, 研究員 (80302066)
塚本 麿充 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, 研究員 (00416265)
北澤 菜月 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 研究員 (10545700)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大徳寺伝来五百羅漢図 / 作品誌 / フェノロサ / 明兆 / 耶馬溪羅漢寺石造五百羅漢像 / 五百羅漢図 / 羅漢信仰 / グローバルアート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①故郷での誕生、②日本への渡海、③唐絵としての規範性、④宝物から美術へ、⑤戦後の美術史学という5つの画期を定め、大徳寺本の規範としての機能と受容の様相を比較検討する。本年度は、研究協議が11月(山口県立美術館)に遅れたが、多くの準備と成果があった。とくに分担者(井手・谷口・北澤)が執筆した『大徳寺伝来五百羅漢図』(思文閣出版)の刊行は、研究の意義と問題の所在を共有するための基礎を確立し、本研究の新たな意義を国内外に向けて発信する機会となった。 ①は、『台北 國立故宮博物院―神品至宝―』の開催 (東京国立博物館、九州国立博物館)、特別陳列『金大受「十六羅漢像」と道釈人物画』(東京国立博物館)の開催し、大徳寺本の背景となる南宋絵画の多様な様相や同時代の羅漢図制作を比較検討した(塚本)ほか、上海・杭州地域で南宋の仏教史蹟を踏査した(2月:増記)。 ②は、鎌倉初期の宋代仏教文化受容の場として、山口市徳地を踏査したほか(11月:井手・塚本)、特別展『鎌倉時代の仏像』(奈良国立博物館)で円覚寺本五百羅漢図を調査した(4月~6月:谷口・北澤)。 ③は、『日本美術全集第6巻 東アジアの中の日本美術日本美術全集』の執筆を担当し、日本における唐絵の規範性を検証し、大徳寺本についても具体例として提示した(板倉・塚本・谷口・北澤)。また大分県耶馬溪の羅漢寺無漏窟内の石造五百羅漢像を実地調査し(11月:井手・谷口・増記・塚本・北澤)、シンポジウムで大徳寺本との図像の関係性について発表した(別府大学、2月:井手)ほか、山口県萩市内で雲谷派の模本を山口県立美術館と調査し(5月、9月:井手)、大徳寺本の規範性の周縁を確認した。 ④はフェノロサについて資料を収集し、1894年のボストン美術館における展覧会図録の翻訳を進めた(井手)。 ⑤は、本研究の意義についてセミナーで講演し好評をえた(東京、6月:井手)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度であったため研究分担者への経費送金が9月にまで遅れたことが原因で、当初、7月に予定していた研究分担者全員による研究協議の開催も11月の山口市における研究会にあわせて行うこととなった。しかし、その間、研究代表者が個別に分担者と会う機会があり、今年度の研究の進捗状況や5年間の研究遂行の見通しについて協議したため、当初の遅れを回復しつつある状況である 一方、『大徳寺伝来五百羅漢図』(思文閣出版)の刊行(5月)によって、研究分担者全員に研究の意義と問題の所在を共有するための基礎が確立されたことは大きい。本書は、想像以上に国内外で反響をもって受け入れられたと聞いている。大徳寺伝来五百羅漢の作品誌をめぐって各時代相における規範性を検証していく本研究にとって、今後、美術史観点を中心に国内外で調査と研究協議を継続して行っていくために不可欠な視覚イメージと研究状況が共有されたことは、今後の研究の深化の大きな助けとなる。 また本年度は、韓国において高麗時代の五百羅漢図について調査を実施したほか、日本における大徳寺本の受容について、とくに山口県萩市内で複数の50幅本の新資料を確認し山口県立美術館と共同調査を行ったほか、一部については美術館における展示を分担者と熟覧調査する機会をもうけ、さらに大分県耶馬溪の羅漢寺に所在する石造五百羅漢像の研究グループともシンポジウムへの参加や研究交流を図り、日本における大徳寺本の規範性を検証するための材料を飛躍的に増加させることができた。次年度の研究協議の準備が大きく伸展したことも予定以上の達成といってよい。 以上の状況を鑑みて、現段階は、ほぼ順調に研究が進捗しているものと評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として重要なことは、まずは、当初の計画どおりに遂行していくことにある。研究分担者に対しては、研究分担にしたたって特定のテーマを集中的に検討する働きかけを行い、活発な議論や新知見を共有できるような環境を整備する必要性を感じている。具体的には計画にあわせて年に2回の研究協議の開催を設定することと、インターネットのさまざまな環境を駆使し、研究分担者や研究協力者間で自由に討論できる場を構築するようにつとめたい。こうした知識と研究資料を共有できる環境は、研究分担者を基本メンバーとしつつも、信頼しうる国内外の研究者、西洋美術史や仏教史の研究者に対しても門戸を開き、総合的かつ真摯な議論を継続的に蓄積できるようにしたい。 なお国内外の調査にあたっては、研究分担者全員の参加は想定していないが、研究分担者間で適宜、日程を調整し、できる限り個人研究のみの蓄積にならないよう徹底していく必要がある。なお国外からの研究者招聘についても、テーマを絞って徹底的な議論ができよう研究会における討論や合同協議を長時間設定し、記録として残し、継続的に公開していく仕組みを考えてみたい。さらに研究分担者に対しても、積極的に国内外の研究会はシンポジウムに参加をお願いし、とくに今日的な美術史の議論として、作品誌という観点の有効性を訴えていきたい。
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Remarks |
研究の概要を伝えるHPを、現在、準備中である。
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Research Products
(28 results)