2015 Fiscal Year Annual Research Report
MEM液体セルによる液中現象の透過電子顕微鏡その場観察
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26246009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 博之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90134642)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マイクロマシン / 電子顕微鏡 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)グラフェンを隔膜とする液体セル : 真空中で水溶液を閉じ込め,かつ電子線の散乱を最小限に抑えられる極めて薄い隔膜として,グラフェンを利用する液体セルを作った。機械的強度の確保のためマイクロサイズのSiグリッドの上にグラフェンを貼り付け, グラフェン表面を酸素プラズマで親水化して, 液体を導入・封止可能にした. 作製したグラフェン隔膜液体セルに, 金ナノ粒子の溶液を入れ電子顕微鏡で観察した結果, 数nmの分解能で金ナノ粒子を観察できた. この結果は9th Nano and Micro Systems International SchoolにてMost Innovative Research Poster Awardを受賞した. (2)ナノ流路集積型デバイスの開発 : 通常のセルは隔膜付きのチップを2枚貼り合わせて作るが,この組立は容易でない.閉じた流路が,観察孔にあらかじめ一体集積されている液体セルを開発した.すなわちSiNでできたナノスケールの幅の流路が,宙づりのパイプのように露出した液体セルを作った. このナノ流路集積型のデバイスに金ナノ粒子の溶液を流し, 流路部と流路のない部分(真空)のEELSスペクトルを比較することで, 液体が存在することを確実に証明できた. さらにAuナノ粒子が動く様子を実時間で観察できた. 分解能はグラフェン隔膜セルよりやや劣るが, SiNのデバイスでも10nm級のAuナノ粒子を観察できた. 本結果は, 化学とマイクロ・ナノシステム学会第32回研究会にて発表し, 優秀発表賞を受賞した. (3)ヒータと熱センサを集積した液体セルの開発 : ヒータと温度センサを集積した液体セルを開発した. ヒータに電圧を印可した時の温度上昇をセンサで確認できた. 温度制御液体セルの最も重要な要素の動作を確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今まで,“液体を封止するデバイス”の作製に成功し, これを用いて“液中現象の観察”の原理検証ができた. 今後は液体セルへの“追加の機能”をさらに進めることで, 最終目標である種々の液中現象を観察する. 液体を封止して観察するという最低限はすでに達成し, さらに機能を組み合わせることで最終目標の達成を目指す. このように極めて良好に進捗している. (1)液体を封止するデバイス : ナノ流路集積セルを開発し, それに液体を入れて封止した. 流路の部分と流路がない部分をそれぞれEELSにて化学分析することで, 流路内部に液体があることを確認できた. 流路の高さが100nm級と極めて小さいため, TEMで観察できる箇所まで液中の試料が入らない問題があった. 流路の寸法の工夫によって解決し, 液体試料を容易に観察できる実験系を完成できた. (2)液中現象の観察 : ナノ流路に直径15nmの金ナノ粒子の懸濁液を入れ, TEM観察したところ, 15nmの金ナノ粒子が流路内を不規則に動き回る様子を実時間で可視化できた. すなわちナノスケールでの液中現象(ブラウン運動)の観察に成功した. 今まで流路の表面に金ナノ粒子が張り付いたためか,粒子が動く様子を観察できなかった.また,粒子エッジの画像解析より8nmを切る分解能であることが分かった。 (3)追加の機能 :加熱に伴う状態変化を観察するため, ヒータと熱センサを集積した液体セルを開発した. また, 異なる液体をTEM内で混合し,化学変化の進行を観察するため, 液体バルブを集積した液体セルを作製した. また,TEM観察の分解能向上のために,SiN膜より薄いグラフェンを隔膜に用いた液体セルを作製した. 以上のように, 液体セルに様々な機能を付与する要素技術を確立した.
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Strategy for Future Research Activity |
大きく分けて2点遂行する. (1) カリクサレンとシトシンの反応過程の観察: 透過型電子顕微鏡で化学反応の観察を試みる際, セルに液体を封止し試料室に入れて真空引きする時間が必要である. このため観察する時には反応が既に終了しており、反応過程を見られなかった. そこで, 昨年作製したナノ流路型デバイスに, カリクサレンという超分子で装飾した銀ナノ粒子の懸濁液にシトシンを加えた液体を封止して観察する. カリクサレンとシトシンは長い時間(3~24時間)かけて結合するため, 銀ナノ粒子の凝集を指標に反応の過程を観察する. (2) ヒーターの集積 : SiN膜の上にマイクロヒーターを集積したデバイスを開発する. さらにそのヒーター付きのデバイスで, 金ナノ粒子が入っている液体を封止し, その液体を透過型電子顕微鏡内部で加熱する. 加熱の前後での金ナノ粒子の動きの変化を観察することで, 加熱デバイスが実際に動作していることを確認する. 加熱デバイスの動作確認後, 一本鎖DNAを付加した金ナノ粒子と,それと相補的なDNAが入った液体を封止し, 温度変化に伴うDNAの二重鎖形成や解離反応の「その場」観察を試みる.
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Research Products
(7 results)