2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26247019
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中井 直正 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80192665)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永井 誠 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50522877)
瀬田 益道 筑波大学, 数理物質系, 講師 (80358994)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電波天文学 / 銀河 / 超伝導カメラ |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙初期で爆発的に星形成を行っている遠方銀河の観測から銀河の形成・進化過程を明らかにするために、ミリ波帯での広視野サーベイ観測を実施する。そのため大口径を活かしミリ波帯で高感度観測が実現できる野辺山45m電波望遠鏡に搭載するためのミリ波帯超伝導カメラと、野辺山45m電波望遠鏡と超伝導カメラを結合するための冷却光学系の開発を進めた。 ミリ波帯超伝導カメラの検出器として力学インダクタンス検出器(MKID)の設計開発を行った。MKIDは超伝導カメラの多画素化で重要となる周波数多重化読み出しが容易なことや誘電体基板と超伝導膜1層で構成される簡便な構造のため、野辺山45m電波望遠鏡のみならず、今後の広視野観測で重要な役割を果たす。MKIDカメラは、大気の窓である90GHz帯と150GHz帯の2バンドを広帯域ホーンで集光し、直交するプローブアンテナとオンチップ上のバンドパスフィルターにより各バンドについて両偏波を検出する。他望遠鏡の例えば350/650 GHz帯の観測と合わせて銀河のスペクトル形状からphotometric redshiftを求めることが可能である。 MKIDの超伝導体にはアルミニウムを用いるため、200mK以下を実現する冷却システムが必要となる。そこで、希釈冷凍機を導入し、無負荷状態で最低到達温度は63mKを達成した。またこの冷凍機の冷却ステージと45m望遠鏡の焦点を結合するための冷却光学系の設計を行った。冷却光学系は直径190mmと270mmの誘電体レンズ2枚を用いた屈折式光学系であり、従来用いられてきた高密度ポリエチレンなどに比べ屈折率の高いシリコンを用いることでレンズの厚みを薄くし、熱容量、誘電体ロスを低減することに成功した。カメラ焦点ではF/3.2であり、視野2.8arcminに渡り光学性能の指標となるストレール比は150 GHzで0.97以上を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究では、野辺山45m電波望遠鏡の観測に適しており、遠方銀河探査とphotometric redshiftの決定に効果的な90GHと150GHzの2バンド観測を実現するカメラおよび冷却光学系の設計開発を順調に進めた。 本研究の90/150GHz帯MKIDカメラは、ビームスプリッタ等で分離した90/150GHz帯を2つのカメラを用いて検出するのではなく、広帯域ホーンとオンチップ状での偏波分離、バンド特性の決定を行うことで1つのホーンにつき両偏波×2バンドを4つのMKIDで検出している。そのため、焦点面を有効的に利用しており、今後の素子数の増加も視野に入れた設計となっている。 MKIDを用いて高感度観測を実現するためには、MKIDカメラを搭載するステージを200mK以下に冷却する必要がある。そこで、冷却光学系の設計が鍵となる。まず冷却時間を短縮するために冷却光学系全体をコンパクトにすることや、窓からの熱流入を低減する工夫が重要となる。前者については、反射防止コーティングの開発が進んだことから高屈折率材料であるシリコンを用いた設計を行い、従来の高密度ポリエチレンなどの低屈折率材料に比べて厚みを薄くすることに成功し、また熱伝導率も良いことから、冷却時間の短縮が期待される。後者については光学系がシリコンレンズ2枚系になっており、レンズ間にコールドストップを配置したことで、熱流入の主な要因となる赤外線放射を遮断するための赤外線遮断フィルターを効果的に配置している。また、バッフル等の迷光対策も行っており、低雑音化や熱設計はおおむね順調と言える。 野辺山45 m電波望遠鏡の受信機室への冷凍機や周辺機器の配置案や、観測システムの構築、ソフトウェアの開発等の搭載・観測に向けた準備も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で行った90/150GHz帯MKIDカメラの開発や冷却光学系の開発を進め、平成27年度中に野辺山45m電波望遠鏡に搭載し惑星等を用いた望遠鏡搭載時のカメラの性能評価を行うことを目標とする。 冷却光学系については、設計した屈折式光学系を希釈冷凍機に組み込むための機械設計を進める。また、熱設計から見積もった赤外遮断フィルターやバッフル等の効果によりカメラを配置する冷却ステージが目標となる200mK以下を実現することを確認する。冷却光学系、多画素読み出し回路、90/150GHz帯MKIDカメラを組み合わせて、実験室にてMKIDカメラの性能評価を行う。各周波数帯のビームパターンの多画素同時測定等の光学試験からは、ビーム性能を確認する。また、90/150GHz帯の発振器を用いてそれぞれのバンドへの漏れ込み量を評価する。検出器雑音の評価からは、雑音等価電力(NEP)換算で10-17[W/Hz1/2]以下となることを目指す。これらの評価を通して望遠鏡搭載へ向けたシステムとしての開発を進める。 平成27年度中に、野辺山45m電波望遠鏡に搭載し試験観測を行う。試験観測では焦点面のすべては使用せず、中心の一部を使用してデータを取得する。まずは超伝導MKIDカメラの性能測定として、大気ゆらぎで制限される検出限界であるNEP換算で10-16[W/Hz1/2]を目指す。また、惑星を用いたビームパターンの測定から回折限界(野辺山45 m電波望遠鏡に搭載した際のビームサイズ:約18″at90GHz、約11″at150GHz)となることを確認する。 次年度以降の本観測へ向けて、試験観測により得られた結果をもとにフィードバックをかけながらソフトウェア、MKIDカメラ、冷却光学系の改良を進める。また、焦点面全体を使用するためにMKIDカメラの多画素化の設計・開発も同時に推進していく。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Design of Wide-field Nasmyth Optics for a Submillimeter Camera2015
Author(s)
Tsuzuki, T., Nitta, T., Imada, H., Seta, M., Nakai, N., Sekiguchi, S., Sekimoto, Y.
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Journal Title
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
Volume: 1
Pages: 25002,25011
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Hot ammonia in the center of the Seyfert 2 galaxy NGC 30792014
Author(s)
Miyamoto,Y., Nakai,N., Seta,M., Salak,D., Hagiwara,K., Nagai,M., Ishii,S., Yamauchi,A.
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Journal Title
Publications of the Astronomical Society of Japan
Volume: 67
Pages: 5,15
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] 野辺山45m電波望遠鏡搭載に向けた220-GHz帯超伝導カメラの開発2014
Author(s)
新田冬夢, 関本裕太郎, 唐津謙一, 三ツ井健司, 岡田則夫, 野口卓, 松尾宏, 関口繁之, 関根正和, 岡田隆, Shibo Shu, 成瀬雅人, 今田大皓, 瀬田益道, 久野成夫, 中井直正
Organizer
日本天文学会2014年秋季年会
Place of Presentation
山形大学
Year and Date
2014-09-13 – 2014-09-13