2015 Fiscal Year Annual Research Report
超低温極限環境電子状態分光による電子正孔系の量子秩序形成の研究
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26247049
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五神 真 東京大学, 総長 (70161809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 孝高 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70451804)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光物性 / 励起子 / 光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
A.光励起半導体励起子・電子正孔系における量子凝縮相の解明と制御 (A-1)準熱平衡状態励起子系の安定化された自発的BECの観測: 希釈冷凍機温度において歪トラップした亜酸化銅1sパラ励起子のLyman分光法を実現した。具体的には、室温の熱輻射の流入を抑えるために希釈冷凍機に取り付ける窓の最適化を完成させ、本手法を用いたイメージングの設計・実現をした。一方、同温度領域で発光の時間分解を行い、パラ励起子がトラップに蓄積される様子を精細に観測した結果から移動度や拡散係数を算出するシミュレーションも構築した。 (A-2)非平衡励起子系の量子縮退:ダイヤモンドにおけるフェルミ縮退した電子正孔液滴相の中赤外域の誘電応答の解析を進めた。結果、特徴的な緩和パラメータの原因について突き止めることができ、2光子生成許容な亜酸化銅1sオルソ励起子の極低温高密度 状態の瞬時生成のための、フェムト秒パルスの光位相の最適化を進めた。 B.レーザー角度分解光電子分光による光励起状態のの新検出手法開拓 レーザー光源を用いた角度分解光電子分光測定において、低い運動エネルギーの光電子を取り扱うことで高精度な測定を達成できる一方で、試料まわりの物質の仕事関数の分布に起因して生じる静電場が光電子の放出角度の正確な把握を阻害することを見出し、静電場による光電子放出角度の変化を注意深く観察した。試料としてバンド分散形状のよく知られたトポロジカル絶縁体Bi2Se3を用い、ピコ秒モード同期Ti:Sレーザーの四倍波を入射して角度分解光電子分光を行い、試料の側面や基板による静電場の影響を議論した。さらに、同レーザーの第二高調波をBi2Se3に照射して光励起し、直後に光電子放出用の第四高調波を照射することで、光励起に由来した過渡的な励起電子状態の角度分解光電子分光を室温で行うことに成功し、その表面状態の分散関係の観測を実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
項目A-1については、目標としていた励起子Lyman分光法による吸収イメージングを実現することができた。また、励起子発光の時間積算測定と合わせた評価により、励起子間の非弾性散乱の散乱断面積の大きさの評価もできるようになった。また、発光ダイナミクスの解析も移動度・拡散係数の抽出のみならず非弾性散乱の評価に寄与できる段階となり、凝縮体の安定的な生成に向けた重要な知見となっている。 項目A-2についても順調に進み、ダイヤモンドにおける電子正孔液滴の誘電応答についての解析について新たな知見が得られるなど進展があった。 項目Bについては、試料周りの仕事関数分布に着目することで低エネルギー光電子分光のさらなる高精度化の方法を見出したこと、及び常温のトポロジカル絶縁体を対象にして光励起由来の状態のバンド分散を観察できることを実証したことは重要な進捗である。また、劈開が困難な試料について真空中で清浄表面を形成するための準備が進み、半導体試料一般の測定が可能な状況となった。 以上の点を総合して、当初の計画通りすすめられているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
項目A-1については希釈冷凍機を用いて励起子温度100mK付近まで冷却された亜酸化銅結晶中の1sパラ励起子について、安定な自発的BECの観測を引き続き目指す。具体的には、昨年度完成させたイメージングによる系統的計測を行う。励起子温度を制御し、トラップ中のパラ励起子の空間分布を抽出し、BECの証拠となる信号を探索する。また、微弱な直接発光の時間分解測定と数値計算の比較を通じて、サブケルビン領域のパラ励起子の拡散係数や移動度を抽出できる解析手法を昨年度構築した。時間分解測定を継続し、本解析手法をもって従来BECの障壁となってきた非弾性散乱過程について究明を目指す。 間接遷移型半導体のダイヤモンドにおいて形成されるフェルミ縮退した電子正孔液滴相の、中赤外域の誘電応答の挙動について詳細な解析を引き続き進める。これにより電子正孔液滴相の巨視的量子現象の形成のために必要な条件を突き止める。 項目A-2については、昨年度に続いて、2光子生成許容な亜酸化銅1sオルソ励起子の極低温高密度状態の瞬時生成のための、フェムト秒パルスの光位相の最適化を進め、(A-1)でのライマン分光法の解析の基礎的知見とする。低温に保ち、かつ更に密度を上昇させる方策についても、引き続き検討を進める。 項目Bについては、亜酸化銅を例とする典型的な半導体に対して、まず光電子分光測定の準備として真空内においてスパッタリング法を活用して清浄な表面を出し、室温下においてポンププローブ光電子分光測定を行うことで、励起状態のバンド分散測定から光励起状態の精密な観測を進める。また、同様の測定を低温下でも行い、伝導率の低下を考慮し励起条件の最適化を行う。そのうえで励起光を導入し、励起子の電子状態を高い精度で議論することを目指す。
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Research Products
(13 results)