2014 Fiscal Year Annual Research Report
微粒子・微生物分散系の「その場シミュレーション技術」の構築とその応用
Project/Area Number |
26247069
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 量一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10263401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安田 修悟 兵庫県立大学, その他の研究科, 准教授 (70456797)
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Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2017-03-31
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Keywords | ソフトマター / アクティブマター / シミュレーション / コロイド / 流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ソフトマター(高分子・液晶・コロイド・ゲル・界面活性剤など)は機能性材料の宝庫であるが、その複雑なマルチスケールの階層構造のため、分子動力学法や計算流体力学法など既存の単一スケールシミュレーション法では歯が立たない。ミクロ階層の影響を統計力学的にメソ階層に反映する粗視化シミュレーション法や、両者を数値的に連結するマルチスケールシミュレーション法が有効であり、申請者らが過去10年間開発に取り組んだ微粒子分散系の直接計算法(SP法)はその成功例である。本研究ではその方法を更に発展させ、これまで適用が困難であった複数相の界面や境界が重要となる現実的な問題に対して複数階層その場シミュレーションを実現し、材料・プロセス開発の基礎技術として確立する。 シミュレーションによる実用的なソフトマターの材料・プロセス設計を想定し、本研究期間中に我々自身が実施可能な例として以下の具体的課題をあげる。いずれも複数相の界面や境界の扱いが本質的に重要となる難しい問題であり、有効な材料開発・プロセス設計を行うためには物質のミクロな性質とメソスケールの構造との関係を理解し、外部の界面や境界との相互作用を制御することが必要である。平成26年度は「マランゴニ効果を正確に考慮した微粒子コーティング」について、コロイド分散系の直接数値シミュレーション法であるSP法を適用し、モデル系のシミュレーションを行った。コーヒーの液滴をこぼすと、乾燥後のシミは均一ではなく外周部に最も濃いシミが残る。この現象自体は身近なものであるが、溶媒液滴に分散した微粒子の固体面への均一なコーティングが如何に難しいかを示す端的な例でもある。インクジェットを用いて固体表面に微細な微粒子コーティングを行う場合、液滴内部の流動によってコーティングが不均一になる。これを防止するためには微粒子の特性に応じた適切な乾燥速度や温度制御を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シミュレーションによる材料設計やプロセス設計という工学的な応用に取り組む際に大きな阻害要因になるのが適切な境界条件の設定である。ソフトマターの物性を基礎科学的な立場から研究する場合、小さな基本セルを空間的に繰り返して構成する周期境界条件が通常用いられる。高分子液体の流動など非線形性の強い問題や、荷電コロイド分散系など相互作用のレンジが大きい場合などでは、現実の境界条件の下で起こる現象を理想化された周期境界条件の結果から正しく予測することは容易ではない。そのような問題では、現実的な境界条件の下でシミュレーションを行うことが本質的に重要である。本研究では現実的な問題への応用を目的としており、個別の境界条件の下でのソフトマター材料の挙動をシミュレーション可能とする。具体的には、電子インクなどの新しい材料技術を用いた表示デバイスの開発や、インクジェット技術を応用した電子基板の製造など新しいデバイス製造プロセスの開発など、複数相の界面や境界が重要となるためにこれまでの周期境界条件ベースのシミュレーションの適用が困難な問題に対して、全系その場シミュレーションを実現する。 これまでの成果によって、乾燥過程にある移動気液界面や、平衡平板間に拘束された状況の導入に成功しており、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は「自己推進微生物によるマイクロモーター」について、申請者等がこれまでに開発した微粒子分散系に対する粗視化シミュレーション手法をベースとし、複数相の界面や境界をそのまま顕に扱うためのその場シミュレーション法を開発する。実験とシミュレーションとを連携し、実験データと比較することによって定量的にモデルの妥当性を検証する。また、いずれの場合も周期境界条件以外の任意の外部境界条件の設定を実現する。モデリングが完了した後、順次大規模なシミュレーションを実施し、データの可視化や仮想現実技術を駆使して得られた大規模データの解析を行う。 水中を泳動する微生物には多種多様な種類があり、その構造の違いにより運動性も異なる。シミュレーションでもこの違いを反映した議論をすべきであるが、バクテリアの鞭毛などの微生物の微細な構造を再現したモデルでは、液体中に存在する1個の微生物の運動すらまともにシミュレーションすることは出来ない。ましてや周囲の流体を通して相互作用する微生物集団のシミュレーションを行うことなどは不可能で、これを実現するためには微生物が持つ本質を失うことなくモデルの大胆な簡略化が求められる。このようなモデルの簡略化は単に膨大な計算量を下げるという技術的な利点のみならず、現実の微生物が示す多様な運動形態を整理し、その原理を理解するためにも大変有効である。現実の微生物の持つ複雑な状況をアクティブコロイドとしていったん簡略化し、本質を突いた小数のパラメータで集団運動の様子を整理し直すことで、詳細なモデルでは見えない本質に迫ることが出来る。物理学では多用される常套手段であるが、生物学的な研究対象でも大いに有効であることを示したい。
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Remarks |
2015年 1月19日 KAPSEL-3.20 一般公開 2014年10月12日 KAPSEL-3.12 一般公開
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Research Products
(11 results)