2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26248003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佃 達哉 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90262104)
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Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2017-03-31
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Keywords | 超原子 / 超原子分子 / 配位子保護金属クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特定の数の貨幣金属原子が会合してできた「超原子」や、さらにそれらが結合した「超原子分子」を化学的に合成し、その物性を明らかにすることで、超原子を単位とする新しい次元の物質科学を切り開くことを目指している。本年度は、下記の成果を得た。 【気相超原子の構造と反応性の解明】6s軌道に2つの電子を持つことから閉殻超原子とみなせる金原子負イオンAu-と、ヨウ化メチルとの気相反応を質量分析、光電子分光、理論計算によって調べた。その結果、Au-がヨウ化メチルを求核的に攻撃し、脱離したI-がAu側に回り込むことで、最終的に金がC-I結合に挿入した[I-Au-CH3]-が生成することを明らかにした。Au-がCH3Iに対して特異的な酸化的付加を引き起こすのは、d軌道が反応に関与しているためである。 【新規超原子の精密合成と構造評価】チオール保護金クラスターAu25(SR)18、A38(SR)24、Au144(SR)60のEXAFS解析によって、内部の結合の硬さに明確な階層性があることを見出した。また、扁球構造をもつ[Au8Pd]2+を選択的に大量合成する方法を開発し、電気化学測定によって電子構造を調べることで、6電子で閉殻電子構造を形成していることを見出した。超原子が構造の自由度を持つことによって、特異な安定性や電子構造を発現することが明らかになった。 【超原子分子の精密合成】カルボン酸を含むチオールの存在下で金前駆体イオンをゆっくりと還元することで、5つの正20面体Au13が(100)面を共有して連結した新しい超原子分子の合成に成功した。得られた1次元超原子分子では、近赤外~赤外域に強い吸収帯が観測された。また、2種類の超原子分子Au23とAu25の電気化学的な酸化による構造変化を実験と理論によって追跡し、対応する2原子分子のイオン化に伴う構造変化と比較した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度は、配位子保護超原子・超原子分子と通常の原子・分子との電子構造の類似性に加えて、違いや特異性を浮き彫りにする成果が得られた。特に、チオラート保護金クラスターでは表面の金チオラートオリゴマーの金ー硫黄結合と金コアの金ー金結合が連結してできた強固な環状構造が、熱的・電気化学的な安定性に大きく寄与していることを明らかにした。また、金コアの変形や異種原子ドープによって、電子不足状態の開殻系超原子や、6電子で閉殻となる超原子の合成に成功した。いずれも、超原子の内部構造と電子構造の強いカップリングによってはじめて発現する、通常の原子では見られない特異的な性質である。これらの特質は、新規な超原子の開発研究に重要な指針を与える。 一方、超原子分子の合成はこれまで試行錯誤に依存していたが、配位子と金属イオンからなる異方的な構造体をテンプレートとした合成法の端緒をつかんだ。また、合成した超原子分子の構造異方性(アスペクト比)と光学吸収エネルギーの関係を確立し、長さとともに一電子遷移からプラズモン吸収による集団電子励起へと遷移する挙動を明らかにしつつある。今後、逐次的な合成へと繋がるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度には、これまで得られた知見を集結して、下記の課題を中心に取り組む。 (1)電子が過剰な開殻系超原子の合成と構造・物性評価 (2)超原子の配列制御と集団化によって発現する新しい性質の探索 (3)超原子オリゴマーの長さと太さの制御
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Research Products
(33 results)