2015 Fiscal Year Annual Research Report
強発光・長励起寿命遷移金属錯体の創製と機能材料への展開
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26248022
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
喜多村 昇 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50134838)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 亮孝 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20708060)
作田 絵里 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80554378)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 強発光 / 長励起寿命 / 金属6核クラスター / ルテニウム錯体 / ゼロ磁場分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
[Mo6X8Y8]2-および[Mo6X8L6]2- (X = Y = ハロゲン、L = 脂肪族あるいは芳香族カルボン酸)の合成に成功し、一部のクラスター錯体については、そのX線構造解析に成功した。[Mo6I8(C2F5COO)6]2-錯体は室温のアセトニトリル溶液中において発光量子収率 = 0.73、発光寿命 = 350マイクロ秒の強発光・長励起寿命を示す事を明らかにすることができた。また、[Mo6X8Y6]2-については励起三重項状態のゼロ磁場分裂パラメータ(スピン副準位間の分裂エネルギー、副準位の励起寿命と相対的な輻射速度定数等)を決定するとともに、ゼロ磁場分裂エネルギーをスピン・軌道カップリングパラメータに基づいて考察・議論した。特に、ゼロ磁場分裂エネルギーは理論的な予測通り、XおよびYの元素番号に比例することを初めて実証することができた。[Mo6X8L6]2-については L = カルボン酸のpKa値とクラスター錯体の酸化還元電位の間に相関があることを見出した。即ち、クラスター錯体のHOMO-LUMOエネルギーはカルボン酸配位子のpKaにより決まり、これにともなってクラスター錯体の発光性(発光エネルギー、寿命、収率)を制御可能であることを示す事ができた。本実験結果については論文として投稿するに至っている。更に、ロシアの研究者と協力し、[Mo6X8]核を修飾したポリメタクリル酸メチルビーズに基づく発光イメージング材料開発へと展開した。 複数のアリールホウソ置換基を有するルテニウム(II)錯体およびアリールホウ素置換型配位子を有するレニウム(I)カルボニル錯体の合成と光物性に関する研究にも成果をあげた。特に、4,4'位にアリールホウ素置換基を有するトリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)錯体は発光量子収率 = 0.43、発光寿命 = 1.7マイクロ秒の強発光・長励起寿命を達成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
室温のアセトニトリル溶液中において、[Mo6I8(C2F5COO)6]2-では発光量子収率 = 0.73、発光寿命 = 350マイクロ秒を、またアリールホウ素置換ルテニウム(II)錯体では発光量子収率 = 0.43、発光寿命 = 1.7マイクロ秒の、強発光・長励起寿命錯体を実現し、本研究の目的を達成した。 更に、金属錯体の励起三重項状態におけるゼロ磁場分裂に関する研究は発光性を議論する上で極めて重要であるにも関わらず、その研究例は世界的に見ても少ない。そのような状況のもと、一連の[Mo6X8Y6]2- (X = Y =ハロゲン)クラスター錯体について3 ~ 300 Kにわたる温度制御発光測定(スペクトル・寿命)を通して発光状態である励起三重項状態のゼロ磁場分裂パラメータを決定するとともに、第一次のスピン・軌道カップリングにより分裂するスピン副準位間のエネルギー差はXとYの原子番号に直線的に比例することを実験的に明らかにすることができた。スピン・軌道カップリングは関与する原子の原子番号に関係することは理論的に予測されていたが、これを実験的に示されたことは、これまでに無い。従って、本結果は光化学・物理の研究に大きなインパクトを与えるものであるとともに、ゼロ磁場分裂制御による錯体の発光性制御に向けた大きな指針をえることができた。このような理由により、当初計画以上に進展したと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)正八面体型金属6核クラスター: H27年度において、[Mo6I8(C2F5COO)6]2-で強発光・長励起寿命を達成するとともに、[Mo6X8Y8]2- (X = Y = ハロゲン)の光物性とゼロ磁場分裂の特徴について大きな成果を得たため、タングステン(II)6核クラスター錯体についても同様な研究を進め、励起三重項のゼロ磁場分裂と発光性の相関を確認し、研究を総括する。また、[Mo6X8L6]2- (X = ハロゲン、L = 脂肪族および芳香族カルボン酸)については電気化学的に1ステップ多電子還元反応が進行することを確認している。同様な多電子還元反応が光化学的に進行すれば、光エネルギーの化学的変換に大きな意味があるため、これを精力的に進める。 2)アリールホウ素置換ルテニウム(II)錯体: これまでポリピリジン型ルテニウム(II)錯体としては世界最長励起寿命を示すアリールホウ素置換ルテニウム・フェナントロリン錯体および世界最強の発光量子収率を示すアリールホウ素置換ルテニウム・ビピリジン錯体を得ている。配位子構造の最適化を通して超長励起寿命と超強発光を併せ持つルテニウム(II)錯体の創製に向けて研究を進め、本研究課題の達成を図る。
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