2014 Fiscal Year Annual Research Report
超低摩擦技術開発のための量子化学に基づく「なじみ」と「焼付き」の理論基盤の構築
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26249011
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
久保 百司 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90241538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 幸志 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10222621)
樋口 祐次 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30613260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超低摩擦 / 量子化学 / トライボロジー / なじみ / 焼付き |
Outline of Annual Research Achievements |
省エネルギーに対する要請から、自動車を始めとする機械産業において超低摩擦技術の実現が急務である。実験研究者の間では「なじみと焼付き」の制御が超低摩擦の実現に必須であると広く認識されているが、これまでのシミュレーション技術では、「なじみと焼付き」といった実験現場でおこる泥臭く、最もサイエンスから遠い現象を扱うことは不可能であると考えられてきた。しかし代表者はトライボ化学反応ダイナミクスを解明可能な量子分子動力学法を世界に先駆けて開発し、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)に応用することで、「なじみと焼付き」の原点はトライボ化学反応にあり、最もサイエンスよりの量子化学によって解明可能であるとの予備的成果を得た。そこで本研究では、開発シミュレータを更に発展させることで、DLCのみならず広くトライボロジー分野に共通な「なじみと焼付き」の理論基盤と学理を構築し、超低摩擦技術の設計を実現することを目的とした。 本年度は、開発済みのGFT第一原理分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータの高速化を実現した。さらにこのGFT第一原理分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータを活用し、窒化炭素膜の水による「なじみ過程」の検討を行った。その結果、水がトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応を明らかにした。さらに水酸基と水素で終端されることで、「焼付き」が防止できることを明らかにした。次に、炭化ケイ素膜の水による「なじみ過程」の検討を行ったところ、同様に水がトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応を明らかにした。さらに、高荷重下ではトライボ化学反応が加速され、水酸基からSi-O-Si結合が形成されることを明らかにした。このSi-O-Si結合の形成は実験的にも観測された。また実験的には「摩擦面の濡れ性分布」を評価する新しい手法も開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定通り、開発済みのGFT第一原理分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータの高速化を実現した。さらに、このGFT第一原理分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータを活用し、窒化炭素膜の水による「なじみ過程」の検討を行った。その結果、水がトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応を明らかにした。さらに、表面が水酸基と水素で終端されることによって、高荷重下でも「焼付き」が防止できることを明らかにした。 また、炭化ケイ素膜の水による「なじみ過程」の検討を行ったところ、同様に水がトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応ダイナミクスを明らかにした。さらに、表面が水酸基と水素で終端されることによって、「焼付き」が防止できることを明らかにした。しかし、窒化炭素膜の場合とは異なり、荷重を増加させるとトライボ化学反応が加速され、水酸基からSi-O-Si結合が形成される様子が明らかとなった。このSi-O-Si結合の形成は、実験的にも観測された。 実験的には、「摩擦面の濡れ性分布」を評価する新しい手法を開発し、炭化ケイ素膜の水潤滑における「なじみと焼付き」について検討を行った。その結果、摩擦を負荷することで表面の濡れ性は摩擦初期と比較し摩擦面のほぼ全域において大幅に増加すること、摩擦時の荷重の増加に伴い摩擦面の濡れ性は面内において不均一に減少すること、焼付き直後の摩擦面は初期表面と同等の濡れ性を示すことなどを明らかにした。 以上のように、当初の予定よりも早く理論的に「焼付き」を防止する方法を提言することに成功したこと、また材料の種類によりトライボ化学反応が大きく異なることを明らかにしたこと、また実験的には当初の予定にはない摩擦面の濡れ性分布を評価する方法を開発したことから、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、精密計算を実現する第一原理分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータを活用して、「なじみと焼付き」現象の解明を実現した。そこで来年度は、1000原子以上の大規模計算が可能なTight-Binding量子分子動力学法を活用して、大規模モデルでの「なじみと焼付き」現象の解明を行う。 具体的には、まず開発済みのTight-Binding量子分子動力学法の高速化を実現する。次に上記で開発した大規模用のトライボ化学反応シミュレータを活用し、セラミックス潤滑膜に関して、水、アルコールなどによる「なじみ過程」におけるトライボ化学反応を理論的に解明する。次に、セラミックス潤滑膜の表面の酸化状態・終端基、ドーパント、荷重、温度、摩擦速度によって、この「なじみ過程」が摩擦係数にどのような影響を与えるのかを理論的に明らかにする。さらに上記の知見に基づいて、「なじみと摩擦係数」の因果関係をトライボ化学反応の観点から明らかにする。 次に、大規模計算が可能なTight-Binding量子分子動力学法を活用して、大規模モデルでのセラミックス潤滑膜の「焼付き」現象の解明を行う。具体的には、セラミックス潤滑膜の種類、表面の酸化状態・終端基、ドーパント、荷重、温度、摩擦速度などが、摩擦界面における「焼付き過程」に与える影響を解明する。さらに上記の知見に基づき、「焼付きと摩耗」の因果関係をトライボ化学反応の観点から明らかにする。また、理論的に明らかになったセラミックス潤滑膜のなじみ現象と焼付き現象の実験的検証を行う。その結果をシミュレーション結果と比較・検討し、理論にフィードバックする。 さらに平成28年度は、油潤滑における「なじみと焼付き」現象の検討をシミュレーションと実験の両方から行う。最終的にはこれらの知見を総括することで、量子化学に基づく「なじみ」と「焼付き」の理論基盤と学理を構築する。
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Research Products
(8 results)