2015 Fiscal Year Annual Research Report
超低摩擦技術開発のための量子化学に基づく「なじみ」と「焼付き」の理論基盤の構築
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26249011
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
久保 百司 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90241538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 幸志 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10222621)
樋口 祐次 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30613260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超低摩擦 / 量子化学 / トライボロジー / なじみ / 焼付き |
Outline of Annual Research Achievements |
省エネルギーに対する要請から、自動車を始めとする機械産業において超低摩擦技術の実現が急務である。実験研究者の間では「なじみと焼付き」の制御が超低摩擦の実現に必須であると広く認識されているが、これまでのシミュレーション技術では、「なじみと焼付き」といった実験現場でおこる泥臭く、最もサイエンスから遠い現象を扱うことは不可能であると考えられてきた。しかし代表者はトライボ化学反応ダイナミクスを解明可能な量子分子動力学法を世界に先駆けて開発し、最もサイエンスよりの量子化学によって、解明可能であるとの予備的成果を得た。そこで本研究では、開発シミュレータを更に発展させることで、広くトライボロジー分野に共通な「なじみと焼付き」の理論基盤と学理を構築し、超低摩擦技術の設計を実現することを目的とした。 本年度は、開発済みのTight-Binding量子分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータの高速化を実現した。さらに、開発したトライボ化学反応シミュレータを活用し、窒化ケイ素膜の水による「なじみ過程」の検討を行った。その結果、水がトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応を明らかにした。さらに、高荷重下ではトライボ化学反応が加速され、Si-O-Si結合が形成されることを明らかにした。また、昨年度に検討を行った炭化ケイ素膜でも同様のSi-O-Si結合が形成されるが、窒化ケイ素膜の方が反応速度が速いことを明らかにした。この結果は、実験的にも確認された。さらに、水分子から解離した水素原子が窒化ケイ素膜の内部に侵入するダイナミクスが観察され、この水素によってSi-N結合の切断が引き起こされることが、摩耗の原因となることも明らかにした。また油潤滑に関する検討も行い、Mo-DTCから形成されたMoS2膜に酸素原子が侵入することで、焼付き現象が起こることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の予定通り、開発済みのTight-Binding量子分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータの高速化を実現した。さらに、このTight-Binding量子分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータを活用し、窒化ケイ素膜の水による「なじみ過程」の検討を行った。その結果、窒化ケイ素膜が水とトライボ化学反応を起こし、表面が水酸基と水素で終端される化学反応を明らかにした。さらに、高荷重下ではトライボ化学反応が加速され、Si-O-Si結合が形成されることを明らかにした。また、Si-O-Si結合の形成により、表面の水酸基による終端が加速され、高荷重下でも「焼付き」が防止できることを明らかにした。昨年度に検討を行った炭化ケイ素膜でも同様のSi-O-Si結合が形成されるが、窒化ケイ素膜の方が反応速度が速いメカニズムを明らかにし、実験的にもこの反応速度の差が実証された。またSi-O-Si結合の形成によって、水分子から解離した水素原子は、窒化ケイ素膜の内部に侵入し、膜内部でこの水素によってSi-N結合が切断されることで摩耗現象が生じることを明らかにした。この窒化ケイ素膜の摩耗現象も、実験結果と良い一致を得た。本研究課題では、「なじみと焼付き」現象の解明を主目的としているが、さらにその先にある「摩耗現象」メカニズムの理論的解明と「摩耗」の防止策の提案までできたことは、当初の計画以上に研究が進展していることを示すものである。 さらに、当初は平成28年度の研究計画としていた油潤滑における添加剤の「なじみと焼付き」現象についても、Mo-DTC添加剤によって形成されたMoS2膜が、酸素原子の侵入によって「焼付き」現象を起こすメカニズムを解明した。平成28年度の研究計画に関する成果も前倒しで得られており、この観点からも当初の計画以上に研究が進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、Tight-Binding量子分子動力学法に基づくトライボ化学反応シミュレータの高速化を実現するとともに、水潤滑における「なじみと焼付き」現象の解明への適用を行った。そこで本年度は、当初の計画通り、開発したトライボ化学反応シミュレータを油潤滑における添加剤が「なじみと焼付き」現象に与える影響を明らかにする。具体的には、Mo-DTCなどの摩擦低減剤、Zn-DTPなどの摩耗防止剤が「なじみ過程」において、どのような潤滑膜を形成するのかを明らかにする。さらに、摩擦低減剤の種類、摩耗防止剤の種類、荷重、摩擦速度、温度などが、「なじみ現象と焼付き現象」に与える現象を解明するとともに、「なじみと摩擦係数」の因果関係、さらには「焼付きと摩耗」の因果関係を明らかにし、実験結果と比較・検討する。 さらに3年間のまとめとして、これまでに検討を行ってきた固体潤滑、水潤滑、油潤滑の3つの系で得られた(1)「トライボ化学反応となじみ現象」の因果関係、(2)「なじみ現象と摩擦係数」の因果関係、(3)「トライボ化学反応と焼付き現象」の因果関係、(4)「焼付き現象と摩擦係数」の因果関係、(5)「焼付き現象と摩耗」の因果関係を総括することで、3つの系で共通な「なじみと焼付き」に関する一般則、個別の系で共通な法則、さらには例外的な法則は何かを明らかにし、「なじみと焼付き」の理論基盤と学理を構築する。さらに、この理論基盤と学理に基づき、「なじみと焼付き」を制御するための方法論を確立する。さらに、上記で得られた「なじみと焼付き」の理論基盤と学理に基づき、超低摩擦を実現するための潤滑膜構造、潤滑雰囲気、なじみプロセスを理論的に設計する。また、理論的に設計された超低摩擦条件の実験的検証を行い、「なじみと焼付き」の理論基盤と学理の有効性、妥当性、さらには応用可能範囲と適用限界を明らかにする。
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Research Products
(20 results)