2015 Fiscal Year Annual Research Report
電場・温度場制御による細胞・組織の接触式不可逆エレクトロポレーション
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26249021
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高松 洋 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20179550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藏田 耕作 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00368870)
Wang Haidong 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30729405)
福永 鷹信 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (60591196)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 不可逆エレクトロポレーション / 低侵襲治療 / 温度計測 / デバイス開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,①不可逆エレクトロポレーションで避けるべきタンパク質の熱変性の定量化手法の確立とその計測,②細胞膜穿孔に及ぼす電圧印加条件の定量化と細胞破壊条件の決定,③MEMSエレクトロポレータを用いた実験による有効性の検討を行った. ①感温性のインクを混入したアガロースおよびアルブミンからなる生体ファントムを試料として,様々な印加条件(パルス幅,間隔,印加回数)でパルスを印加し,電極周辺部の温度上昇を検出した.これには,26年度に開発した光学顕微鏡によって電極周囲の感温性インクの輝度値を計測する方法を用いた.また,レーザーラマン顕微鏡によってラマンイメージングを行い,アルブミンの熱変性によって生じるα-helix構造からβ-sheet構造への変化をAmide I領域のスペクトルから定量化できることを確認した. ②電位勾配,印加回数,パルス幅,パルス間隔を変えながら細胞懸濁液にエレクトロポレーションを行い,細胞致死率を求めることによって細胞死に関わるパルス印加条件の影響を調べた.蛍光観察によって生細胞・死細胞の判定を行い,細胞致死率のパルス印加条件依存性を定量化した. ③26年度の電場解析により得られた電極幅,電極間距離を参考にして微小表面エレクトロポレータを作製した.そして,線維芽細胞を分散させたアガロースゲルを生体ファントムとして用いて,微小表面エレクトロポレータに接触させてパルス印加を行った.蛍光染色した試料を共焦点レーザー顕微鏡によって観察し,印加電圧と細胞壊死深さの関係を調べた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,①タンパク質の熱変性の定量化手法の確立とその計測,②細胞膜穿孔に及ぼす電圧印加条件の定量化と細胞破壊条件の決定,③MEMSエレクトロポレータを用いた実験による有効性の検討を行う予定であった. ①については,感温性インクを混合した生体ファントムを試料に用いてパルス印加後の電極周囲の輝度値を計測することによって温度上昇を計測した.また,ラマンイメージングによってアルブミン構造変化を計測した.その結果,厳しいパルス印加条件では,IREに伴って特に陽極の温度上昇と変性が顕著に生じることを初めて明らかにした.これは,陽極と陰極の電極界面で生じる化学反応の違いに起因するものと推察された. ②については,キュベット内の細胞懸濁液に対して電気パルスを与える実験を行い,印加回数を変数として細胞致死率の増加をフェルミ分布関数で表せることを示した.また,パルス幅やパルス間隔がフェルミ分布関数における傾きと50%致死率を与えるパラメータに与える影響を明らかにした.本研究では,パルス間隔が長いほど細胞致死率の増加が著しくなるという新しい知見を得た.これはこれまでの予想に反する結果であった.細胞膜穿孔による試料の電気的特性の変化や電極分極による実印加電圧の低下などが原因ではないかと調査したが,いまだ原因究明には至っていない. ③については,電場解析の結果をもとにして,実際にフォトリソグラフィ法を用いて微小表面エレクトロポレータを作製した.線維芽細胞を分散させた生体ファントムに対して最大印加電圧100 Vまでの電気パルスを印加し,表層の細胞が壊死することを蛍光染色によって確認した.しかし,レーザー顕微鏡によって観察された細胞壊死深さは電場解析で予想された深さの約半分であり,0.1 mmに満たないことが明らかになった.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画3年目となる平成28年度は以下に示す内容の研究を進める. ①細胞膜穿孔プロセスの観察と薬剤添加による低電圧化の検討:26年度に開発したマイクロギャップエレクトロポレータによる研究を発展させる.マイクロギャップエレクトロポレータは,2枚のガラス製透明電極と流路から形成され,共焦点レーザー顕微鏡ステージに組み込まれている.この実験系を用いて,細胞に電気パルス印加したときの細胞膜穿孔プロセスの観察を行う.膜電位感受性色素(DiBAC4(3))や脂質染色色素(DiI)で細胞膜を染色した細胞に対してエレクトロポレーションを施し,パルス印加ごとに細胞膜が損傷していく過程や再シールされる過程を観察し,そのプロセスにパルス条件が及ぼす影響を明らかにしたうえで,効果的な膜破壊法を検討する.さらに,細胞膜の透過率を高めるサポニン,界面活性剤,細胞膜中のコレステロールを低減するブルーデキストランなどの薬剤添加,あるいは細胞外液のK+濃度を通常より高くして細胞内液に近づけた環境で膜電位を下げる方法などにより細胞膜破壊に必要な電圧を低減する方法を探索する. ②MEMSエレクトロポレーションの改良と最適化:27年度の研究では,微小表面エレクトロポレータによる細胞壊死領域は表層より0.1 mm程度に留まることが明らかになった.そこで,これらの結果と上記①による検討に基づき,電圧印加条件,電極配置,薬剤添加を考慮して最大の壊死深さが得られるように最適化した微小表面エレクトロポレータを設計製作し,その有効性を検証する.
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Research Products
(9 results)