2016 Fiscal Year Annual Research Report
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26250003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池谷 裕二 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (10302613)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経細胞 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
ニューロンは細胞体から樹状突起という線維構造を伸ばしている。樹状突起は上流の細胞からの情報を興奮性シナプス入力として受け取り、脱分極応答として細胞体に伝えている。複数の細胞からのシナプス入力は細胞体へ伝わる過程で統合される。この際、ニューロンが脱分極し発火閾値に達すると活動電位が発生し、情報は下流の細胞へと出力される。樹状突起はシナプス入力を非線形に加算し、ニューロンの活動動態を多様化している。ただし、こうした樹状突起に関する知見は、シナプスを人工的に活性化させることで得られたものである。そのため、脳内で生じる自然なシナプス入力に対し、樹状突起がどのような情報処理を行っているのかについて不明な点が多い。そこで我々は、樹状突起が自然なシナプス入力に対して行う情報処理機構に迫った。本研究では自然なシナプス入力に注目するため、多数の自発的な神経活動が観察されるラット海馬切片培養を用いていた。シナプスの後部構造であるスパインがシナプス入力を受け取ると、スパイン内へCa2+が流入する。そこで、Ca2+イメージング法を用いてCA3錐体細胞樹状突起へのシナプス入力を蛍光強度変化として捉えた。同時に、細胞体よりパッチクランプ法を用いて興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。 我々はシナプス入力とEPSCのタイミングを比較することで、一部のシナプス入力はEPSCと同時に記録されないことを発見した。このことから我々は、一部のシナプス入力は細胞体に伝わらず、EPSCを発生させていないと推察した。また、各スパインへのシナプス入力がEPSCと同時に記録された確率(EPSC probability)を算出したところ、EPSC probabilityはスパインごとに異なることを見出した。以上の結果より、樹状突起は、受け取った情報を抑制性シナプス入力によってフィルタリングすることで、ニューロンの選択的な発火活動を実現していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したように、我々は一部のシナプス入力はEPSCと同時に記録されないことを発見した。これを深く掘り下げるために、スパインの形態とEPSC probabilityとの関係を調べた。スパインは形態によって電気的性質や受容体の発現量が異なる。そこで、Ca2+イメージングを行った後、超解像顕微鏡を用いてスパイン形態を観察した。しかし、スパインの体積や長さにEPSC probabilityとの相関はなかった。このことは、スパインの電気特性や受容体の発現量ではシナプス入力が細胞体へ到達することの成否を説明できないことを意味している。さらに、EPSCが記録されるシナプス入力(有効なシナプス入力)とEPSCが記録されないシナプス入力(無効なシナプス入力)でCa2+蛍光強度変化率(%ΔF/F)を比較したところ、有効なシナプス入力の方が大きいことを見出した。これまでに、抑制性シナプス入力が個々のスパインへのCa2+流入を調節していることが示唆されている。以上から、本現象が抑制性シナプス入力によって引き起こされていると想定された。そこで、GABAA受容体阻害薬picrotoxinを細胞内適用した。その結果、EPSC probabilityの分布は高確率側にシフトすることがわかった。また我々は、抑制性シナプス入力によって一部の興奮性シナプス入力が細胞体へ到達できていないとすれば、picrotoxinの細胞内適用によりEPSC頻度が増加すると考えた。そこで、2細胞から同時パッチクランプ記録を行い、一方にのみpicrotoxinを細胞内適用したところ、picrotoxinを適用した細胞はEPSC頻度が高かった。これらの結果から、抑制性シナプス入力により、一部の興奮性シナプス入力は細胞体へ伝わらず、無効化されているという驚くべき知見が明らかになった。上記を考慮するに、研究は順調に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
神経細胞が伸ばす線維(樹状突起と軸索)は神経情報処理の主要な場である。しかし神経線維は微小構造であるため物理的なアクセスが難しく、線維演算の実態は未解明である。本研究は、神経線維へ光学的にアプローチすることで、神経回路の動作原理を解明することを目的とする。具体的な計画は以下の3点である。課題1)樹状突起のスパイン活動を可視化し、シナプス入力の細胞体への影響を調べる(in vitro実験)、課題2)軸索分岐部での活動電位を可視化し、発火パターンと伝導確率を調べる(in vitro実験)、課題3)ドパミン作動系、ノルアドレナリン作動系、セロトニン作動系の神経活動を軸索から記録することで、睡眠覚醒時、行動探索時、記憶学習時における活動変化を、投射先の脳部位別に調べる(in vivo実験)。上記の各課題に対して、具体的には以下のような検討をお行う。課題1-1)リップル中の樹状突起スパインにおけるカルシウムイメージングを行い、その時空間パターンを解析する。課題1-2)樹状突起におけるカルシウムイメージングと細胞体におけるEPSCの同時記録が進行中であるため、解析をすすめる。また得られた知見について、ロジスティクス回帰を用いた解析と、数理モデルの構築を試みる。課題2)軸索における活動電位のイメージングにより、伝播の確度が想定されたものよりも高いことが、これまでの研究から示唆されているため、例数および実験条件を揃え、知見としての確度を高める。課題3)in vivoのDA線維刺激の実験系が完成したため、当初の予定通り実験を継続する。
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Research Products
(3 results)