2014 Fiscal Year Annual Research Report
葬制から見た古代エジプト文明の変化とその社会的背景に関する学際的研究
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26257010
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
吉村 作治 東日本国際大学, その他の研究科, 教授 (80201052)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 武 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (30063770) [Withdrawn]
近藤 二郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70186849)
馬場 悠男 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, その他 (90049221)
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エジプト学 / 葬制 / 中王国時代 / 新王国時代 / 社会階層 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代エジプト文明の転換期である中王国時代から新王国時代にかけての葬制の変遷過程とその社会的背景を、考古資料を用いて評価することが本研究の目的であり、本年度は資料の取得、整理のためのエジプト現地調査を2回実施した。2014年8~9月に行われたアブ・シール南丘陵遺跡の調査では、新王国時代第19王朝の王子カエムワセトの石造建造物、および王女イシスネフェルト墓周辺の発掘調査を実施し、当該時期の埋葬習慣に関連した遺物を取得した。またダハシュール北遺跡の調査は、エジプトの政情不安によって延期され、研究費の繰越しによって2015年5月に行われた。新たな地点の発掘調査を実施し、新王国時代後半に年代付けられる墓を発見した。シャブティと呼ばれる小像を中心に、膨大な量の副葬品が出土し、考察に有用な資料になると考えられる。同時に、ダハシュール北遺跡の中王国時代の墓を対象に、編年研究に向けた遺構の分析を実施した。その結果、時期的な変遷をある程度明らかにできただけでなく、階層の違いや周辺遺跡との関連が葬制の違いに影響を与えていることがわかった。 アブ・シール南丘陵遺跡で過去に発見された集団埋葬の出土遺物の化学分析と人骨の人類学的分析を実施した。埋葬は第2中間期末から新王国時代第18王朝初頭に年代付けられている。蛍光 X 線分析装置を用いた非破壊化学組成分析を実施し、ガラス製品には原料にメソポタミア製ガラスとの関連性が示され、銅合金製品についてはメソポタミア製の可能性が高いことがわかった。人類学的調査では、4 体が成人で、1 体は成人に近い若年、残りの 6 体は幼少年であることが判明した。同じ血縁集団である可能性が高い結果が得られた。人骨には高所からの転落が原因となる受傷の治癒痕や、死亡前後の受傷痕が下肢に集中している人骨が複数個体あり、被葬者は乗馬の習慣を持つ人々であった可能性が高いと推定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エジプトの政情不安による調査の延期はあったものの、それ以外は予定通りに調査が遂行された。繰越によって2015年5月に行われたダハシュール北遺跡の調査で新たに発見された遺構は、過去の発掘地点の間に位置している。ダハシュール北遺跡の新王国時代の墓地は東から西に向かって漸次的に延伸していくと予想されたが、今年度の成果は墓地が複雑な過程を経て発展していたことを示す。墓地の変遷過程解明に向けた重要な前提となり、このような知見がすでに得られたことは、調査の延期を補って余りある。また中王国時代の墓の遺構による分析では、墓のサイズが被葬者の階層に強く結びつくことが残存している副葬品との対比などから明らかになった。同時代の遺跡では盗掘によって副葬品の残存状況が極めて悪いが、遺構は盗掘で大きく改変されることはない。今回の成果を援用すれば、他の遺跡と比較してどの程度の階層の人々が、どれだけこの遺跡にいたかという構成を推測することもでき、古代エジプト社会におけるこの墓地の位置づけを知る上でも有益な成果である。 アブ・シール南丘陵遺跡の発掘調査では、既掘の墓の埋葬の性格をより明らかにするために、イシスネフェルト墓のシャフトの周辺の発掘と集団埋葬の副葬品及び人骨の分析を行った。シャフト周辺の発掘では、シャフト造営時の掘削排土、埋葬後の盗掘時の盗掘排土が層位的に明らかになり、今後の発掘で盗掘排土から副葬品の断片の出土が期待される。また、中王国時代と新王国時代の間にあたる時代の集団埋葬から発見された遺物の原料が、メソポタミア起源である可能性が示され、当該時期の副葬品の変化の背景として、原料の流通が関係しているという知見が得られた。副葬品の内容や人骨の分析からもからも被葬者は西アジア地域との関係が示され、人の移動や交易活動がもたらした影響について今後検討していくための資料とすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では最初の3年間は葬制の変遷過程の解明に重点を置き、その後の2年間で変遷の社会的背景を考察する予定となっている。次年度ではアブ・シール南丘陵遺跡、ダハシュール北遺跡での発掘調査を継続するとともに、X線分析、人骨の人類学的な分析を続けていき、資料の蓄積を図る。今年度の発掘調査では、新王国時代に関する成果が主だったが、次年度では中王国時代の調査も行う予定である。ダハシュール北遺跡で調査を行った地点では中王国時代のものと推測される墓の存在も明らかになっていたが、時間の問題から発掘調査まで行うことができなかった。次年度にこれらを発掘することで、中王国時代における墓地の発展過程についても考察を加え、新王国時代との比較を行うための資料とする。また副葬品についても編年を中心とした研究を進めていく。特にシャブティに関しては膨大な数が蓄積されており、未整理のものの資料化を進める予定である。
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Research Products
(10 results)