2014 Fiscal Year Annual Research Report
地圏における環境浄化微生物の活性を担う電子伝達性固体腐植物質の生成消失過程
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26281040
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
片山 新太 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 教授 (60185808)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞外電子伝達 / 嫌気性微生物 / 還元的脱塩素反応 / 硝酸還元 / 電気培養 / 機能解析 / 反応中心解析 / 腐植化 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀-塩化銀参照電極とグラファイト電極のあるカソード電極槽と白金対象電極のあるアノード槽を陽イオン交換膜を境界として繋いだ2槽式電気培養槽を作製した。供試固相腐植物質をカソード槽内に懸濁させることによって細胞外電子伝達能を評価するアッセイ系を構築した。ペンタクロロフェノール脱塩素活性を持つ集積微生物群が、ペンタクロロフェノール脱塩素活性(Dehalobacter属細菌)だけでなく、鉄還元活性(Bacteroides属細菌)および硝酸還元活性(Sulfurospirillum属細菌、アンモニア生成)を有することから、この微生物群で3つの還元反応における細胞外電子伝達能力を評価する系を構築した。また、2槽式電気培養槽でShewanella属細菌の脱窒反応を対象としたアッセイ系も構築し、有害な中間代謝産物である亜硝酸の濃度を低く抑えた硝酸還元ができる点を細胞外電子伝達能の評価項目とできることを明らかにした。 地圏環境における腐植生成過程における細胞外電子伝達能力の生成を明らかにするために、まず異なる土壌に由来する各種固相腐植物質を抽出し、ペンタクロロフェノール脱塩素微生物群の活性に対する効果を調べたところ、いずれの固相腐植にも細胞外電子伝達能力があることが明らかになった。赤外吸収スペクトルからC=Oの2重結合とOH基を有すること、固相電子スピン共鳴スペクトルから安定な有機ラジカルを構造中に有すること、サイクリックボルタンメトリから酸化還元能力があることが、全ての固相腐植で確認された。 一方、土壌腐植の起源の一つである土壌微生物の死骸の細胞外電子伝達能を、土壌微生物の凍結乾燥菌体粉末を用い、ペンタクロロフェノール脱塩素活性を指標として調べた。その結果、糸状菌およびグラム陰性菌の菌体粉末には、ペンタクロロフェノール脱塩素活性のための細胞外電子伝達能力がみられなかったが、多くのグラム陽性菌の多くに細胞外電子伝達能力がみられることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画した実施項目を実施し、固相腐植物質の細胞外電子伝達能力を調べるアッセイ系を構築するとともに、固相腐植物質ヒューミンが酸化還元電位の異なる複数の微生物還元反応の細胞外電子伝達能力を有することを明らかにした。また、細胞外電子伝達能力が起源の異なる固相腐植ヒューミン中に広く存在すること、また固相腐植に代わるものとして土壌微生物の凍結乾燥菌体粉末を用いることができることを明らかにした。以上のように実施計画を順調に進めながら、意義深い成果を得ており、学会での口頭発表(6回)とともに、学術論文誌2編に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる平成27年度では、これまでに確立したアッセイ系を用い、地圏における生物遺体の分解腐植化過程における生物由来電子伝達物質の消長の解明を行う。自然環境に模した条件で実験室内で培養した後、試料の炭素、窒素、水素、灰分を分析して分解過程の物質収支をとる。つぎに、腐植物質を常法によりアルカリ可溶の腐植酸、酸アルカリ不溶のヒューミンに分画して、得られる腐植物質の細胞外電子伝達能を調べるとともに、分光学的解析(電気化学的性質の変化を電子スピン共鳴で、また化学構造変化を赤外分光、固体核磁気共鳴、 X線吸収微細構造解析等の共通機器での解析)でその電気化学的性質を評価する。また、化学的酸化プロセスによる腐植物質合成についても評価する。 また、地圏環境で起こることが知られている腐植生成過程に関連する化学的・生化学的酸化プロセスや鉄酸化物等の金属化合物との有機無機複合反応(メタロセンやポルフィリンの形成の有無)による電子伝達中心の生成の有無を評価する。すなわち、(a)マンガン酸化物等の無機酸化物による生体成分の重縮合反応、(b)パーオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ等による生体成分の重合反応、(c)鉄イオン、コバルトイオンと生体成分の有機無機複合反応を調べる。 さらに、培養中に細胞外電子伝達能力が発現する系が見つかったら、酸化還元中心として有望な生体成分の炭素標識化合物を出発物質として用い、同様の地圏環境を模擬した条件での培養を開始する。標識試験では、加えた生体成分の炭素収支を明らかにするとともに、13C標識化合物を用いた試験では、培養後に固体固体核磁気共鳴解析により13C炭素骨格の変化を明らかにする。 以上から、細胞外電子伝達を担う化学構造を解明し、その電子伝達速度および微生物反応速度との関係を定量的に解析し、固体腐植物質の持つ環境浄化反応への効果を明らかにする。
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