2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26281043
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松本 謙一郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80360642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大井 俊彦 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40223713)
田口 精一 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70216828)
佐藤 敏文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80291235)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バイオプラスチック |
Outline of Annual Research Achievements |
将来、石油等の化石資源は、埋蔵量が減少に伴い入手が困難になり、価格が上昇すると予測されている。その際に代替原料として期待されるのが再生可能なバイオマス資源である。バイオマスを利用するためには、原油が炭素数ごとに分留され、さらに様々な合成原料へと変換されているのと同じように、利用可能な成分への分離と、有用な化学物質への変換プロセスを開発する必要がある。ここで、安価な原料から、より高付加価値の化合物を合成できれば、産業上の価値はさらに高くなることになる。我々の研究グループでは、微生物が生産するポリエステルの合成機構について研究を進めている。微生物産生ポリエステルは、細胞内に蓄積されるポリマーであるが、単離・精製することで、ポリプロピレンのような汎用樹脂に類似した物性を示すため、石油化学製品の代替材料になる可能性がある。微生物は、様々な炭素源を資化して合成原料にすることができるため、本微生物培養系は、バイオマスからプラスチックを合成するプロセスと考えることができる。類似した物質生産系としては、例えば、酵母を利用したバイオポリエチレンの合成が挙げられる。この系では、酵母を培養してエタノールを生産し、エタノールを化学的手法によりエチレンに変換し、次いで重合させてポリマーを得る。この方法と対比すると、我々の方法は、化学的プロセスを用いずに、単一の細胞内で、最終目的物質であるポリマーの合成までを行うことが特徴である。これにより、生物が有する精密合成の能力を生かし、複雑な構造を有するポリマーの合成が可能となる。本研究課題では、複数のモノマーユニットを含む共重合体の合成に取り組み、従来よりも高い精度でモノマーが導入されたポリマーの合成に成功した。今年度以降は、微生物の細胞内で進行するポリマー合成反応の詳細を分析し、本手法をさらに他のポリマー合成系にも応用できるようにすることを試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題は、特殊な遺伝子組換えを施した微生物を利用したポリエステル合成系が、これまで知られていたよりも非常に高い精度で、合成されるポリマー構造を制御できることがポイントである。 初年度は、第一段階として、合成されたポリマーの構造解析を行うことを目的とした。培養条件の検討により、培養時間をこれまでより短縮することができ、ポリマーの分析のための基礎を構築した。本ポリマーを用いて種々の解析を加え、ポリマーの一次構造について、想定と矛盾のない結果を得た。さらに、ポリマーを薄膜へとプロセシングし、顕微鏡を用いた高次構造の解析を行った。ポリマーのプロセシング方法および条件を様々に探索した結果、良好な結果が安定して得られる手法を確立した。さらに、高次構造解析からも、ポリマー構造が精密に制御されていることを示す証拠を得た。一次構造については、従来既知の方法で合成されていたポリマーと、今回本申請課題が提案する新しい方法で合成したポリマーが、異なる構造を有する強力な証拠を示したものの、その構造を完全に決定するところまでは至っていない。構造が未知の高分子の構造を解析することを考えた場合、隣接するモノマーユニットの関係、数ユニットの重合の様式、大局的な構造、というような階層構造が存在するが、大きな階層の方が解析が難しい。したがって、構造解析はさらに継続する必要があるが、当初の目的は、凡そ予定通り進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、上述したような精密な構造制御が起こる仕組みを解析する。 本ポリマーの合成には、二種類のモノマーの合成とそれぞれのモノマーの重合という4つの反応が関与している。これらを触媒する酵素を単離精製し、反応速度解析が行えるように準備する。具体的には、組換え大腸菌で発現させたHisタグ融合タンパク質を、Ni結合カラム用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することを検討する。また、反応の解析に使用する基質を合成し、アッセイに必要な量と純度を得る方法論を確立する。基質の合成には、酸無水物を介して化学的に合成する方法と、アシルCoAシンテターゼを用いて酵素的に合成する方法を比較検討し、効率の高い方を用いる。得られた基質を用いて、ポリマーの合成系の解析を行い、構造制御の仕組みを探索する。 それと並行して、ポリマー合成大腸菌のメタボローム解析を試みる。上述したように、本ポリマー合成には、2種類のモノマー前駆体が関与する。重合が進行する過程で、これらの前駆体の細胞内濃度がどのようになっているか調査する。一般論としては、モノマーの供給速度が重合速度を上回っている場合、細胞内からモノマー前駆体が検出されるはずである。一方、重合の方が早い場合は、モノマー前駆大は極めて低い濃度でしか検出されないと考えられる。これらの知見を組み合わせて、共重合体の構造制御が行われる機構を明らかにし、さらなる応用が可能になるようにする。
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Causes of Carryover |
昨年度に使用した実験装置は、古い実験装置が、これまでの目的に使用しなくなり、使用可能になったため、それを改造・改良して使用することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度計画している反応速度論解析は、質量分析など、高度な分析機器を多く使用することになるが、これまでに解析されたことのない複雑な酵素反応の解析を試みるため、それに必要な実験手段・装置を予め予測することは難しい。慎重に実験を進め、真に必要な方法を見極めたうえで、効果的に研究費を執行する。
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Research Products
(2 results)