2016 Fiscal Year Annual Research Report
構造から表面まで：漆造形物制作におけるデジタル基盤技術導入の実践的研究
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26282008
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| Research Institution | Miyagi University |
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Principal Investigator |
土岐 謙次 宮城大学, 事業構想学部, 准教授 (20423783)
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| Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金田 充弘 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (00466989)
田中 浩也 慶應義塾大学, 環境情報学部, 教授 (00372574)
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| Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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| Keywords | 漆 / プロダクトデザイン |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本研究は大別して「造形的構造技術」と「表面的装飾技術」について研究を進めている。本年度は主に前者について「①塩ビ塗料による離型性評価」「②紙ハニカムコアを用いた乾漆コンポジットの試作と強度試験」「③ハニカム乾漆コンポジットによる家具制作の実践」「④研究発表会の開催」を実施した。①では、昨年度までに塩ビ素材が乾漆造形制作の型素材として好適であることが確認できているが、3次元形状の型を制作する方法には大別して塩ビそのもので作る方法と、他素材で成形した型表面を塩ビ塗装する方法に分けられる。本年度は木型表面に塩ビ塗料を塗布したものからの乾漆離型評価を実施した。おおむね良好な離型性を示すものの、条件によっては不完全な場合もあり、引き続き安定した離型性を得るための諸条件の検討が必要である。塩ビそのもので型を作る手法についてはすでに試行に着手しており、29年度に実施する予定である。②では、紙ハニカムコアを乾漆板でサンドイッチ構造にしたものを制作し、強度評価を行った。その際、コアと乾漆板の接着にはアクリル系接着剤と漆による接着強度を比較評価し、漆接着はアクリル接着に対して約87％の強度を有することが分かった。①と②をうけて、③では椅子とテーブルの制作を通じて、ハニカム乾漆コンポジットの制作方法について実証的に検証した。成果物として実際に着座可能な各種構造の椅子6脚、実用強度を持つテーブル1台を得た。④ではAXISギャラリー（東京都港区）にて研究発表会を開催した。会期中に漆掻きの実演と関係者によるシンポジウムを行い、漆をめぐる現状と新しい可能性について啓発を行った。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度申請段階では「椅子を制作する上で、実用強度の確保が重要である・本研究ではこれを実験機材を用いて科学的に実証する。」としているが、前項のとおりハニカム乾漆コンポジットの強度試験を通じて実用強度を経験的に見極めた上で椅子とテーブルの制作に成功した点では良好な進捗と言えるが、物性情報がまだ充実していないため、事前のシミュレーションが十分に行えていない点ではやや遅れている。「3Dプリンティングによって出力される多孔質・漆コンポジット素材を、孔密度、形状、漆の種類等の要素の順列組み合わせにより多数の試験体を用意し、強度試験を実施して、最適な組み合わせを探る。強度試験を踏襲し、さらに精密に行う。」については、多孔質３Dプリンティングに着手しておらずこの点では進捗がはかばかしくないものの、パイプ状、布ドレープ状、板状、真空成形形状の４つ乾漆の形状とそれに見合った型の制作手法のバリエーションを得られていることにより、全体の進捗としては補えていると考える。また、大規模な展示会を5年の研究計画の3年目で開催し、研究に対する多くの批評や指摘を受けたことにより、実用強度を持った乾漆制作の課題点が洗い出され、残りの研究機関での目標設定が明確になった点において有意義であった。なかでも研究題目の一部として謳っている「デジタル基盤技術導入」の点においては、設計や工作機械の制御においてはデジタル化しているものの、漆素材の制御および漆作業制御そのものをデジタル化できていない点が最大の課題である。上記のことから現在までの進捗状況は概ね順調と考える。
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| Strategy for Future Research Activity |
乾漆造形を行う際に最も重要となる型の製作手法と離型処理についておおよそ現実的な方法が確立しつつある。塩ビ板の真空成形法が現時点で最も自由度が高く安定した方法であり、今後は本手法の精緻化を進め、生産手法の確立への足がかりとする。また焼き入れによって乾漆の硬化が進むことは実験を通じて確認しているが、焼き入れによる強度の変化を計測する必要がある。これによって得られる物性情報によって、乾漆構造のシミュレーションの精度を向上させていく。現在は人体を支える程度の強度を発揮するものとして家具を中心に乾漆造形を行っているが、今後は義手装具などの身体に接する造形物を乾漆で制作するなど、応用の範囲を拡張してゆく。本年度はほとんど着手できなかった「表面的装飾技術」については、まずは漆表面の硬度評価を行う。焼き入れ処理によって硬度が上がることが予想されるが、焼き入れ温度や時間との相関を探り処理法の最適化を進める。また、導電インクの扱いに苦慮していることから同様に進捗が滞っている漆タッチインタフェースの開発を進める。全体として、乾漆がFRPに替わりうる素材として社会的に認知されるためには更なる素材開発と技術の標準化が必要であり、大方針として効率的な乾漆の生産手法の確立を目指す。
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