2016 Fiscal Year Annual Research Report
酵素を利用した文化財の新規クリーニング方法の開発 -旧修理材料や微生物痕の除去-
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26282071
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 修復材料研究室長 (20311160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川野邊 渉 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 部長等 (00169749)
木川 りか 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, 課長 (40261119)
本多 貴之 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (40409462)
山中 勇人 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 環境技術研究部, 研究主任 (40416368)
佐藤 嘉則 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 研究員 (50466645)
酒井 清文 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (60416302)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アクリルエマルション / ポリビニルアルコール / 酵素 / 評価 / 建造物彩色 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は三つの調査研究から成り立つ。一つは材料化学的調査であり、除去対象とする汚れの化学構造の把握を目的とする。二つ目は微生物酵素学的調査であり、材料の分析をもとに酵素の選定やその機能の評価を行う。三点目は現場での適用である。 1.材料化学的調査。本年度はアクリル樹脂の物性について化学分析を行った。文化財修復に多く使用されるアクリル樹脂のうちエマルション液で使用されるものについて紫外線を用いた強制劣化試験を行い、得られた試料をGC-MSで分析した。アクリルエマルションに用いられる樹脂は劣化しにくいと言われているが、文化財現場では過酷な環境で使用されることもあるため、劣化した場合の状況を想定するためのデータとした。 2.微生物酵素学的調査。本年度は、ポリビニルアルコール分解酵素による顔料の変色の有無、修復材料(主に接着剤)の接着力への影響評価を行った。これらの成果は前年度までの成果と合わせて論文投稿を行った。また、劣化して不溶化したポリビニルアルコールについて、エーテル化が進行しているとの推定を元に、このような物質の分解酵素の探索を行った。 3.現場での適用。建造物彩色に使用されたポリビニルアルコールの除去に酵素を用いた事例について、実際に適用を行った。PVA単体を用いて処置されていた作品であったため、暗色化部分が除去され、新たに膠での処置も行うことが可能になり、酵素の有効性が現場においても確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポリビニルアルコールの分解酵素による顔料の変色の有無、修復材料に用いる接着剤への影響評価など、文化財修復の現場に直接還元できる調査研究が遂行された。これによって、酵素使用における安全性が確認されたため、以後の使用に際して、安定した用途を確保することができる。 この結果、ポリビニルアルコールの使用された文化財建造物など、実際の修理現場での適用も実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、ポリビニルアルコールのみならず、溶菌酵素の利用や、アミラーゼの利用など、他の酵素へのアプローチも検討していく予定である。 また、2017年度には国際学会での発表も予定している。
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Causes of Carryover |
新規PVA分解酵素の探索に予想以上の時間がかかり、予定より多くの試料について、精査し、詳細な評価を実施する必要が生じた。
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