Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化が懸念されるなか, 日本でも山岳中, 上部の植物群を中心に分布域縮小や生物多様性の危機が予測されている. これに対処するには, 最終氷期から現在への温暖化過程での植物群の挙動を具体的に明らかにする必要がある. 本研究は, 大型植物化石, 花粉分析, 地形・土壌形成, 植生地理解析を総合して, 中部日本における, 最寒冷期を含む最終氷期後半の新たな植物群垂直分布像を実証的に構築し, 現在に至る変遷過程をきめ細かく復元することを目的とする. 栃木県宇都宮市中里のMIS3後半および最終氷期最寒冷期の花粉と大型植物遺体分析結果や, 茨城県土浦市花室川の最終氷期最寒冷期の花粉と大型植物遺体分析結果から, 低地にはバラモミ類からなる針葉樹湿生林やチョウセンゴヨウやカラマツが優占する針葉樹とナラ類・カバノキ属を含む落葉広葉樹の混交林, 丘陵・山地帯には現在の針葉樹林と類似するトウヒ, シラビソ, コメツガからなる針葉樹林が分布していたことが明らかになった. 山梨県勝沼市京戸川の最終氷期最寒冷期試料の大型植物遺体, 花粉分析結果は, 花粉群ではマツ属が優占し, ツガ属が多かった. 最終氷期最寒冷期の東北地方南部から中部地方の針葉樹林でのツガ属出現率は, 高標高域や斜面に近い場所で多く, 最終氷期の分布立地は現在と同様であることが明らかになった. これらの成果からは, 最終氷期には寒冷・乾燥気候下で大陸型の針葉樹林が広がっていたという従来の説とは異なり, 現在の日本の冷温帯~亜寒帯に分布する針葉樹林が地形に対応して配置していたことが明らかになった. 大阪市立自然史博物館所蔵の三木茂大型植物遺体標本の年代測定と標本に付着した堆積物の花粉分析を行ったほか, 長野県中部梓川上流部池尻湿原で機械ボーリングによって採取されたコア試料の炭素年代測定と大型植物遺体分析を行った. その結果, 池尻湿原のコアの基底部の年代は約4600年前で, 完新世後期の堆積開始期は, 現在とほぼ同じ落葉広葉樹林が周囲に広がっていたことが明らかになった.
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