2016 Fiscal Year Annual Research Report
原子力災害リスク評価のための大気乱流・拡散マルチスケール予測モデルの確立
Project/Area Number |
26282107
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹見 哲也 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10314361)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 浩成 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究副主幹 (50535903)
堀口 光章 京都大学, 防災研究所, 助教 (60190253)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 自然災害 / 大気乱流 / 大気拡散 / 原子力災害 / 気象モデル / LES / 災害リスク評価 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
京都市伏見区の京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーにおいて平成28年1月から2月にかけて実施した大気境界層の観測データ(気象観測鉄塔での超音波風速温度計による乱流データ、鉛直1次元ドップラーライダーによる下層風データ、ラジオゾンデデータ)の分析を進めた。観測期間中の出現した様々な気象状況のうち、北風が卓越し、中立に近い成層状態の場合を抽出し、風速変動や乱流特性の分析をした。また、平成25年6~7月に京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーで実施済みの境界層の観測データも併用し、大気乱流の統計的性状をまとめた。
2 mメッシュという高分解能の京都の地形データおよび京都市街地の建物高度データを用い、Large-eddy simulation (LES)モデルの下端境界条件として与え、北風かつ中立成層時を想定し、実際の京都市街地域の乱流のLESを実施した。シミュレーション結果を観測データと比較し、計算の妥当性を検証した。その上で、LESの結果を解析し、境界層乱流の組織構造とそれによる乱流輸送過程の実態を明らかにした。本解析結果を平成29年1月に米国シアトルで開催された米国気象学会年次大会における都市環境会議においてポスター発表した。本ポスター発表は高く評価され、Best Poster Presentation賞を受賞した。
また、LESモデルに成層効果を取りいれるためのコーディングを進めた。理想的な粗度ブロック上の流れ場を対象とし、安定成層時のLESを実施した。2011年3月11日東日本大震災により発生した東京電力福島第1原子力発電所からの放射性物質の拡散の事例を対象として、安定成層時の乱流・拡散のLESを実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
観測データの解析については、ドップラーライダーを業者からレンタルして実施することとしていたが、業者保有の観測機器に故障が生じたため、観測期間が平成29年1月から2月にかけてという当初予定よりも3ヶ月以上遅れた時期に実施した。冬季の寒気吹き出しに伴う北風条件を捉えることには好都合な時期ではあったものの、観測時期が遅れたため、データ処理や分析も遅れることとなった。したがって、LES結果の妥当性の検証のためのデータセットの作成も遅れ、LESの計算結果の解析もそれに応じて遅れてしまった。この遅れを取り返すため、観測データやLESデータの解析も同時並行で進めた。その結果、観測データの解析およびLESによるシミュレーション結果の解析のそれぞれの成果を投稿論文としてまとめるところまでは到達できた。
LESモデルに成層効果を取り入れる試みも進め、東京電力福島第1原子力発電所の原発建屋および周辺地形の詳細の構造をLESモデルに組み込み、気象モデル・LESモデルの結合により2011年3月の放射性物質拡散イベントを対象として、LESによる乱流・拡散の試算をすることができた。
観測機器の不具合のため観測の実施が遅れたことで、観測データの解析とそれに基づくLESの実施には遅れがあったものの、論文としてまとめることはできた。また、LESモデルの高度化も一定程度は進めることができた。そのため、研究はおおむね順調に進んだものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
投稿中の論文の改訂を進めるとともに、未投稿の研究成果のとりまとめと論文投稿を進める。京都市街地で取得された様々な気象条件での観測データを用いて、気象モデル・LESモデルの結合化による大気乱流計算を行い、乱流の組織構造とそれによる乱流輸送過程の解析を進める。福島原発事故を対象とした拡散シミュレーションについては、東日本大震災後の放射性物質の放出イベントを対象とした数値シミュレーションをさらに進め、様々な気象条件を想定したシミュレーションを行うことにより、原子力災害リスク評価のための定量的な大気乱流・拡散のマルチスケール予測手法を確立する。
|
Causes of Carryover |
平成27年度に実施の現地観測が、レンタル予定だった観測機器の故障のため、当初予定よりも3ヶ月強遅れた。そのため、観測データの分析、それに基づく計算機シミュレーションの実施も遅れ、投稿論文の執筆と投稿も遅れた。このように研究遂行に遅れが生じたため、結果として次年度使用額が生じることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在投稿中の論文の改訂作業を進め、投稿料に使用する。また、観測データの解析と計算機シミュレーション結果の解析もさらに進め、研究成果を国内外での学会や会議で発表し、論文としてまとめて国際誌に投稿することで、研究成果の積み上げをはかる。
|
Research Products
(14 results)