2016 Fiscal Year Annual Research Report
体外受精卵のクオリティーを選別するマルチ卵重計の創製
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26282143
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
曾根 逸人 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80344927)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 純男 群馬大学, 大学院理工学府, 特任教授 (10334129)
坂田 利弥 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70399400)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カンチレバ-半導体複合型バイオセンサ / 検査・診断システム / 医用システム / 電子デバイス・機器 / モニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、体外受精卵の非侵襲な精密診断法の開発を目指して、受精卵の重量と呼吸活性の同時連続測定が可能な、ピエゾ抵抗カンチレバに半導体センサを搭載したマルチ卵重計を創製する。平成28年度は、(1)LabVIEWを用いたカンチレバセンサ自励発振方式の試作、(2)変位検出用ホルダ型カンチレバセンサの作製、(3)2方向観察沈降測定法の開発、(4)フォトおよび電子線フォトリソグラフィを用いたSiナノワイヤ(NW)バイオセンサの試作、(5)リング型マルチ卵重計の試作について研究した。 (1)では、培養液中でのカンチレバセンサの共振安定化を目指して、LabVIEWおよび電流アンプを用いて検出信号を駆動素子へ正帰還させる自励発振システムを試作した。 (2)では、マウス受精卵の質量測定を行うため、集束イオンビーム(FIB)を用いて穴加工等を施したホルダ型ピエゾ抵抗カンチレバを作製した。マウス受精卵の質量測定を試みたが、カンチレバへの搭載ができず、測定に至らなかった。 (3)では、ガラス管の中央を沈降する試料を選別するため、2方向から観察する沈降測定システムを作製した。ポリスチレンビーズを測定した結果、密度約1046 kg/m3、質量約386 ngが得られ、文献値密度1050 kg/m3とほぼ一致する値となった。 (4)では、フォトリソグラフィで電極と絶縁膜、電子線リソグラフィでSOI基板に幅80~300 nmのSiNWを形成してSiNWセンサを作製した。表面をアミノシラン処理後、低濃度IgG抗体と反応させた結果、濃度6 fMの超低濃度IgGで約5%の電流減少を得た。 (5)では、周波数および変位検出による受精卵質量と半導体センサによるイオン濃度の同時測定を目指したリング型マルチ卵重計の試作を行った。フォトマスク作製からリングセンサの形状加工まで完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前記(1)の自励発振方式への改良は、当初計画の磁気駆動ではカンチレバの振動振幅が小さくピエゾ抵抗検出ができなかったことから、圧電素子駆動に変更した上で、ピエゾ抵抗検出信号を正帰還させて自励発振させた。これにより、LabVIEWで共振周波数の連続測定が可能になった。しかし、測定中に振幅が増加する問題があるため、プログラム修正を検討中である。 (2)のカンチレバ変位検出では、前年度は海水中でウニ卵子の質量が測定できたので、マウス受精卵の質量を測定するため、FIBによるカンチレバへの穴加工と落下防止用のピラー加工を行った。実際にマウス受精卵の搭載を試みたが、カンチレバに載せても直ぐに脱落してしまい、質量測定ができなかった。 (3)の沈降測定では、2方向観察によりガラス管中央を沈降するポチスチレンビーズを選別可能になり、沈降速度および密度の測定精度が向上した。 (4)のSiNWセンサ作製では、電極および絶縁膜の形成によりリーク電流が抑制され、電流電圧特性の再現性が向上した。そして 6 fMの超低濃度IgGが検出できたので、これを受精卵から出るイオン濃度検出に応用する予定である。 (5)のリング型マルチ卵重計の試作では、有限要素解析でセンサ特性を計算して形状を選択した上で、フォトマスクを作製した。全部で5層の重ねフォトリソグラフィが必要で、各工程の条件出しを行いつつプロセスを進めた。SOI基板への表面酸化膜形成、ピエゾ抵抗および半導体センサ部の酸化膜除去とPドープ、電極形成、リング型センサ形成まで加工が完了した。しかし、ピエゾ抵抗特性および半導体センサ特性の評価、裏面深堀によるリングセンサ裏面剥離ができていないことから、H29年度に研究を継続する。 以上の理由より、研究が遅れている部分はあるが、多くの進捗した部分があるので、総合的にはおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、自励発振カンチレバ振動型センサの改良と沈降測定法によるマウス受精卵質量測定を並行して進めつつ、半導体センサおよびSiNWセンサを複合したマルチ卵重計の試作について研究開発する。 自励発振システムの改良では、LabVIEWからの正帰還回路に振幅制御プログラムを導入する。また、振動型センサではカンチレバへの受精卵固定が必要なため、受精卵が保持できるホルダ形状を有限要素解析シミュレーションで再設計して、カンチレバへFIB加工する。さらに、自励発振システムを用いて、リソグラフィで試作するマルチ卵重計の共振周波数モニタリングによる質量測定を試みる。 沈降測定法では2方向制御により高精度測定が可能となったことから、マウス受精卵の質量測定を試みる。 カンチレバ型センサと半導体センサおよびSiNWセンサを複合したマルチ卵重計は、ピエゾ抵抗測定および半導体特性を評価した上で、裏面加工によるリング型可動センサを形成して、振動特性と変位量を測定する。そして、完成したセンサを用いてマウス受精卵の質量と呼吸活性の同時測定を実施する。最初は、インキュベータ内で顕微観察しながら、受精卵をリング型センサ上に載せ、大気中、生理食塩水中、培養液中での周波数特性を測定して質量を求める。この時、溶液の物性(粘性、イオン濃度等)によるカンチレバの周波数特性およびSiNWセンサの電気特性が変化する可能性があるので、事前に環境変化を評価した上で、受精卵搭載を行う予定である。 次に培養液中でマウス等の受精卵の質量変化および呼吸活性変化を同時に連続測定する。測定時間はマウス胚培養期間の4日間に設定し、LabVIEWを用いて各種データを自動収録する。 なお、本研究で得られた成果は、学会、論文、ウェブ等のメディアを通じて広く社会に発表する予定である。
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Causes of Carryover |
直接経費に未使用額が生じた理由は、購入を予定していたFIB原料(Gaイオン源)とそれを交換するためのメンテナンス費用が不要であったこと、機械・電子部品、生化学実験器具・試薬の一部の購入および出張の一部を見送ったことが原因である。FIB原料については、イオン源の原料(Ga)が枯渇してビームが出なくなった時に交換するが、平成28年度は枯渇せず正常に動作していたことから交換しなかった。部品、器具、出張旅費については、研究期間延長申請を行った平成29年度においてマルチ卵重計の試作等で使用するため、学術研究助成基金助成金の一部を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、自励発振システムの改良、沈降測定法によるマウス受精卵質量測定、マルチ卵重計の試作と評価を行う。自励発振システムの改良ではLabVIEWによる正帰還回路に振幅制御回路を導入して、連続測定時の振幅上昇を抑制する。この時、アナログ回路作製のための電子部品を購入する。また、自励発振に用いるホルダ型カンチレバではFIB装置を用いることから、イオン源が枯渇した際には、その購入および交換メンテナンスを行う予定である。沈降測定法では、測定システムはほぼ完成しているが、マウス受精卵質量測定に向けたセットアップ修正のため機械部品および生化学実験器具が必要となる。マルチ卵重計の試作では、東京大学の微細加工施設を利用することから、それに必要な材料、施設利用料、出張費を予定している。なお、マウス受精卵を用いた測定については、東京大学坂田研究室で実施するため、出張費が必要となる。
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Research Products
(5 results)