2015 Fiscal Year Annual Research Report
社会性低下の神経機構―リハビリテーション療法のための基盤研究―
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26282155
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三谷 章 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50200043)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松林 潤 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00452269)
中井 隆介 中部大学, 公私立大学の部局等, 助教 (10576234)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リハビリテーション / 神経科学 / 社会性 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物実験:社会的行動と神経活動の解析 社会的行動の発現に関わる内側前頭前皮質の前辺縁皮質(PL)と下辺縁皮質(IL)のマルチユニット活動記録を行うための無線送信機を頭部に取り付けた2頭のラットをオープンフィールドに入れ、自由行動下でのニューロン活動と相互干渉行動を同時観察した。PLは相手に向かって積極的に関わるときに活動増加を示したのに対して、ILはむしろ抑制的な活動を示した。この発火パターンは、発達期隔離飼育によって自閉的あるいは多動的行動を示す隔離飼育ラットでは観察されなかった。このような結果から、PLとILとの活動バランスが正常な社会的行動の発現に重要な働きを担っている可能性が示唆された。 ヒト脳機能イメージング実験:共感に関わる脳領域の解析 社会的行動の発現に重要である他者に対する共感性に関わる脳領域を探索するために、2名の登場人物が交流し、3コマまでは共通の漫画が使用されているが、4コマ目が他者に対して共感的行動を取る結末と、非共感的行動を取る結末との2種類のストーリーをもつ4コマ漫画刺激を作成した。この4コマ漫画刺激によって誘発される脳活動の違いについて脳磁場計を用いて検索した結果、他者に対して共感的行動を取る結末を観察した場合に、被験者の前頭葉内側部などにおいて活動の増加が認められた。このような結果から、ヒトの前頭葉内側部は他者に対する共感性に関わる脳領域として重要な働きを担っている可能性が示唆された。また、共感性に関する研究の過程で、自己・他者の認識が社会性形成の基盤的機能を有することが判明したので、ラバーハンドイリュージョンを利用した自己の身体イメージ形成に関わる脳領域についてfMRIを用いて検索し、内側前頭前皮質にイメージ形成時に活動増加することを認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物実験に関しては、研究実績の概要で記述したように、当初計画された社会的行動と関連して活動変化する脳領域を見つけ、さらにその脳領域の活動バランスが正常な社会的行動の発現に重要であるという仮説が導き出された。また、ヒト脳機能イメージング実験に関しても、独自に作成した共感性を生じさせる4コマ漫画刺激を用いることによって、共感性に関わる脳領域を探索することができている。また、共感性に関する研究の過程で、自己・他者の認識が社会性形成の基盤的機能を有する可能性を見つけ、内側前頭前皮質に自己の身体イメージに関わる反応を認めた。
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Strategy for Future Research Activity |
動物実験:社会性低下に関わる脳領域の検証 前年度までの研究によって、PLおよびILの活動バランスが社会的行動の発現に重要な働きを担っていることが示唆された。このPLおよびILを含む内側前頭前皮質が本当に社会性の神経基盤であるならば、その活動変化を正常化すれば社会的行動が改善するはずである。このことを検証する。社会性低下を起こした隔離飼育ラットのPLあるいはILを電気刺激し、その行動がどのように変化するかを解析することによって、PLやILの活動を正常化させるという戦略がリハビリテーション療法などにおける社会性低下の対策の基本原理となり得るかどうかを探索する。 ヒト脳機能イメージング実験:共感に関わる脳領域の解析 日本語版Empathy quotientテストによって共感性が高い者として判定された群と低いと判定された群において、前年度の作成した4コマ漫画刺激によって誘発される脳活動の違いについて脳磁場計を用いて検索し、ラットの社会的行動の発現に深く関わっている内側前頭前皮質との類似性について検討する。また、自己の身体イメージに関わる内側前頭前皮質との関連についても検討する。
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Causes of Carryover |
初年度(H26年度)に計画したテレメータ装置の開発が、当初の計画よりも効率よく短期間で完成したため、開発のための支出経費が予定よりも節約できた。本年度(H27年度)はその経費をH27年度の経費と合わせて、局所神経回路観察装置の組み立てに充当する計画であったが、完成に必要な技術的改良点が見つかり、まだ組み立てが完成できていない。そのため、未使用の経費が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度の助成金と合わせて使用することにより、本研究完遂に必要な上述の装置を完成させる。
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