2014 Fiscal Year Annual Research Report
運動負荷誘導性マイオカインOSMによるNASH改善のメカニズムとその治療への応用
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26282195
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
森川 吉博 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60230108)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 非アルコール性脂肪肝 / サイトカイン / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
高脂肪食給餌によりNASHを発症させたマウス(NASH発症マウス)にオンコスタチンM(OSM)を投与すると、NASHの改善とともに摂食量の減少が認められた。しかし、コントロール群の摂食量をOSM投与群と同量に合わせても(ペアフィーディング)NASHの改善(肝臓中の中性脂肪や総コレステロール含有量の低下、ASTやALTの血中濃度の低下)がほとんど認められなかったことから、OSM投与によるNASH改善効果は摂食量の減少を介している可能性が低いと考えられた。 NASH発症マウスの門脈内にOSMを投与したところ、OSM投与後15分で肝細胞にSTAT3やERKの活性化が認められ、OSMが直接肝細胞に作用している可能性が示唆された。また、OSM投与後1時間と2時間において、脂肪酸合成に働く酵素であるFASの発現が減少し、長鎖脂肪酸のβ酸化を促進する酵素であるACSL3とACSL5の発現が増加したことから、OSMは脂肪酸合成を抑制し、脂肪酸酸化を促進する可能性が示唆された。 また、NASH発症マウスにおいて、OSM投与によりグルコース不耐性やインスリン抵抗性が改善し、脂肪組織中のM1/M2マクロファージの比が減少した。さらに、脂肪組織中のTNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインの発現量が減少し、IL-10などの抗炎症生サイトカインの発現が増加し、OSMが脂肪組織の炎症やインスリン抵抗性を改善する可能性が示唆された。 腸管における脂肪吸収に対するOSMの役割をNASH発症マウスにおいて検討した。OSM投与により糞便中の総脂肪量や中性脂肪量が増加しており、脂肪の吸収の低下が示唆された。また、NASH発症マウスにおいて、OSM投与による体温、行動量の変化は認められなかった。 以上の結果より、OSMは肝臓への直接作用(脂肪酸合成の抑制と脂肪酸酸化の促進作用)、慢性炎症とインスリン抵抗性改善作用、及び摂食と脂肪吸収の抑制作用を持ち、これらの作用が合わさってNASHの改善へと繋がっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画により、OSMによるNASHの改善作用には、摂食量減少はほとんど関与していないこと、OSM投与により短時間のエネルギー代謝に変化が認められないことが明らかとなった。本年度の研究実施計画の中では、運動時における筋や血中でのOSMの発現の変化の検討やNASH発症におけるOSMの役割の検討が残っており、次年度に遂行する予定である。一方で、NASH発症マウスにおいて、OSMは肝臓への直接作用(脂肪酸合成の抑制と脂肪酸酸化の促進作用)があること、慢性炎症とインスリン抵抗性改善作用があること、及び摂食量と脂肪吸収量の低下作用があるという結果を得た。これらの結果は、OSMを分子標的としたNASHやその基盤にあるメタボリック症候群の統合的治療法の確立をめざす本研究にとって大いに役立つ結果である。以上のことより、本年度の研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
OSMは肝臓に直接作用し、脂肪酸代謝と関連している可能性が示唆された。次年度は、肝細胞などの肝臓に存在する種々の細胞をそれぞれ分取しOSMを作用させ、OSMの肝臓における効果について検討する。また、脂肪肝やNASHにおける肝細胞の分取・培養の手法については確立されていないため、新たな培養系の確立を目指す。 OSMRKOマウスにおける脂肪組織マクロファージのM2からM1への形質転換がNASHの発症の原因であるのかを検討するために、OSMRflox/floxマウスとLysM-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、マクロファージ特異的なOSMR欠損マウスを作製する。 本年度、ヒト血中OSM濃度の測定を行ったが検出感度外であった。次年度は、より微量の濃度が検出可能なキットを用いるなどの改善策をとり、ヒト血中OSM濃度の検出とNASH患者におけるOSM血中濃度の検討を行う。 野生型とOSMRKOマウスにNASHを誘発する餌を給餌し、肝臓における脂肪蓄積量、肝障害レベル、及び肝線維化レベルを測定することによりNASHの発症週齢や重症度を検討し、NASH発症におけるOSMの役割を明らかにする。また、脂肪組織の炎症、糖・脂質代謝やエネルギー代謝(代謝基礎代謝量や体温、行動量)を測定し、NASH発症時の様々な炎症・代謝性変化におけるOSMの役割を検討する。 NASHを発症させたマウス(NASH発症マウス)にいろいろな種類、強度、時間の運動を負荷することにより、NASHの治療に最も適した運動療法を検討する。運動療法によるNASHの改善効果は、上記の方法により検討する。また、NASH発症マウスにおける運動負荷の種類、強度、時間と骨格筋や血中のOSMとの相関について検討する。 野生型とOSMRKOマウスに対し、2週齢時にジエチルニトロサミンを腹腔内投与し、6週齢から高脂肪食を負荷することで、NASH関連肝癌発症モデルマウスを作製する。36週齢で肝臓における腫瘍の数、頻度、大きさを評価する。
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Causes of Carryover |
本年度購入予定であった呼気ガス測定装置(オキシマックス)が、和歌山県立医科大学の高額備品費でよりハイスペックなものが導入される予定となり、本研究費で購入することを見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述のように、和歌山県立医科大学で呼気ガス測定装置が導入されることがほぼ確定的であるので、次年度の計画を遂行するのに必要な備品(細胞分取装置、フローサイトメーター、テレメトリーなど)の購入に使用する予定である。もし、和歌山県立医科大学での呼気ガス測定装置の導入が見送られれば、次年度の予算で呼気ガス測定装置(オキシマックス)を購入予定である。
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