2015 Fiscal Year Annual Research Report
運動負荷誘導性マイオカインOSMによるNASH改善のメカニズムとその治療への応用
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26282195
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
森川 吉博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (60230108)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 非アルコール性脂肪肝 / サイトカイン / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
水泳(1時間)とトレッドミル(中等度負荷と高負荷を1時間)運動負荷後の下肢の筋肉や血中におけるOSMの発現変化について検討した。水泳や中等度負荷のトレッドミルでは、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋などの下腿の筋群においてOSMの発現が増加し、高負荷のトレッドミルでは、これらの下腿の筋群に加え、大腿の筋群においてもOSMの発現が増加していた。しかし、今回の実験条件では、血中のOSM濃度に変化は認められなかった。骨格筋中のOSMの作用部位を検討するために、細胞分取装置を用いて下肢の骨格筋よりOSMRβ陽性細胞を分取した。OSMRβ陽性細胞の純度は約84%であり、分取したOSMRβ陽性細胞は、血管内皮や筋衛星細胞、及び間葉系前駆細胞などであった。これらの結果より、骨格筋組織において運動負荷によりOSMの発現が増加し、何らかの作用を発揮する可能性が示唆された。さらに、免疫染色法によりOSMRβの発現は、肝細胞の他に、LYVE-1陽性の肝類洞内皮細胞に認められた。この結果より、OSMは肝類洞内皮細胞に対して何らかの作用を及ぼしている可能性が示唆された。 NAFLDのモデルマウスである遺伝的肥満のob/obマウスにメチオニン/コリン欠乏食(MCD)を給餌し、ヒトのNASHに類似したNASHモデルマウスを作成し、OSM投与や運動による効果を検討した。このNASHモデルマウスでは、同週齢のob/obマウスと比較して血中や肝臓中のOSMの発現が増加していたが、軽度の運動負荷では、血中OSM濃度に変化は見られなかった。また、このモデルマウスにOSMを投与すると、肝臓においてTh2反応関連遺伝子や線維化抑制関連遺伝子が誘導された。 野生型とOSMRKOマウスにMCDを給餌し、NASHの重症度を検討した。MCDを4週間給餌後において、肝臓の脂肪含有量や線維化の程度をオイルレッドO染色やシリウスレッド染色によりそれぞれ検討したが、野生型マウスとOSMRKOマウスの間に差は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載したように、本年度はおおむね研究実施計画に従って行なってきたが、NASH発症時の肝臓におけるOSMの役割の検討や、ヒト血中OSMの測定など一部実施できていない実験があり、次年度に遂行する予定である。一方で、骨格筋中の血管内皮および筋衛星細胞や、肝臓における類洞内皮細胞などにOSMが直接的に作用する可能性が本年度の実験結果により示唆された。これらの結果は、OSMを分子標的としたNASHやメタボリック症候群の統合的治療法の確立をめざす本研究にとってその分子基盤の解明に大いに役立つ結果である。以上のことより、本年度の研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果より、OSMは骨格筋中で血管内皮や筋衛星細胞、及び間葉系前駆細胞に作用している可能性が示唆された。次年度では、これらの細胞を細胞分取装置を用いて分取し、OSMの直接作用について検討する。また、肝臓においても、肝類洞内皮細胞や星細胞、fibrocyte、myofibroblastなどの細胞を分取し、OSMの直接作用について検討する。 本年度OSMRflox/floxマウスをジャクソン研究所より購入する予定であったが、納期遅延の可能性があり、購入することができなかった。次年度は、OSMRflox/floxマウスを購入し、LysM-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、マクロファージ特異的なOSMR欠損マウスを作製する。 本年度作成したヒト類似NASHモデルマウスであるob/obマウスにMCDを給餌したモデルマウスに対してOSMを投与し、NASHに対するOSMの治療効果を検討する。また、より強い運動負荷時の血中OSM濃度の変化や、骨格筋や肝臓中におけるOSMの発現について検討する。さらに、NAFLDのモデルマウスであるob/obマウスとOSMRKOマウスを掛け合わせ、NASHの発症におけるOSMシグナルの役割を検討する。 前年度にヒト血中OSM濃度の測定を実施したが、検出感度外であった。そこで、本年度はより微量なOSMの測定が可能なキットを用いて行ったが、同様に検出感度外であった。本年度のマウスの実験結果より、強度の運動負荷ほど骨格筋中のOSMの発現が増加することが明らかとなっており、次年度は、運動負荷と血中OSM濃度の関連性をマウスにおいて検討するとともに、強度の運動負荷時のヒト血中OSM濃度の検出を検討する。
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Causes of Carryover |
本年度、ヒト血中OSM濃度を測定し、得られた結果を学会で発表する予定であったが、市販の2種類のキットを用いてもヒト血中OSM濃度は検出感度外であったため、残りの検体数を測定する分のOSM測定キット分と学会出張旅費の未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
マウスでは、運動負荷により、血中OSM濃度の上昇が報告されている(Hojman et al, Am J Physiol Endocrinol Metab, 2011)。次年度は、本年度用いたものとは別のキットを用いてヒト血中OSM濃度の検出を目指すとともに、運動負荷時のヒト血中OSM濃度の検討を行い、得られた結果を学会で発表することとし、未使用額はその経費に充てる。
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Research Products
(1 results)