2015 Fiscal Year Annual Research Report
子どもの「アート的思考」を基盤にした保育の可能性に関する理論的実践的研究
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26282206
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
植村 朋弘 多摩美術大学, 造形表現学部, 教授 (50328027)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡司 明子 群馬大学, 教育学部, 准教授 (00610651)
刑部 育子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (20306450)
森 眞理 立教女学院短期大学, 幼児教育科, 准教授 (20319007)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | レッジョ・エミリア / イタリア / アトリエリスタ / ペダゴジスタ / 保育 / ドキュメンテーション / プロジェクト / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 調査・発表:保育学会での自主シンポでは、26年度の研究成果から特に表現素材と子どもと他者との対話に着目し、デザイナーと保育者との協働による視点融合から生まれる表現世界の学びの意味について考察した。また26年度のレッジョ・エミリアでの調査を踏まえ、幼児の造形活動ワークショップ(以下WS)とその観察・分析・考察をおこなった。27年度再びレッジョエミリアに赴き、研究内容と成果について発表と議論をおこなった。デザイン学会では、幼児の原初的表現・創造活動をデザイン理論の源泉として捉え発表をおこなった。 2.ツール開発・カリキュラム開発:ツール開発は、26年度の基本デザインを踏まえ、27年度は「活動のドキュメンテーションを撮影するためのiPhoneアプリ」とそれらを「アーカイブ化・検索のためのアプリ(Mac)」を開発した。ドキュメンテーションを基本に展開する3保育園での保育者へ実装アプリの使用実験と評価をもとにデザイン展開した。カリキュラム開発では、幼児への表現WSの実践と省察から、保育とデザインの違いと相補的に補う視点のフレームを抽出した。また保育者向けの園内研修を保育とデザインの専門家と協働し、保育実践の理念構築の議論からデザインの創造的思考が関わる可能性を検討した。 3. 保育実践・理論構築:静岡・鳥取の保育園・東京の幼稚園において、子どもへの表現ワークショップを約40回、表現活動における幼児と保育者との対話調査2回、保護者対象のWSをおこなった。デザイナーと保育者との協働による実践活動をもとに専門性について考察した。また幼児学校で活動するイギリスの彫刻家を招聘し、WSをおこない国の文化的比較をおこなった。理論構築では「驚くべき乳幼児の心の世界」の翻訳(佐伯)をもとに、従来の乳幼児の他者理解への新しい視座を提起し、WS実践事の観察・分析・解釈をもとに理論構築を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 調査・発表:調査・発表の目標は達成できた。26年度にレッジョの調査・ディスカッションの成果をもとに、保育園・幼稚園にて表現活動のWSをおこない、文献研究による理論と対応づけて深めることができた。特にこれらの成果を保育学会自主シンポ及びデザイン学会において発表をおこなった。27年度にもレッジョ・エミリアの研修に参加し、26年以降の研究発表をおこなった。その発表ではレッジョスタッフとのディスカッションから、アート思考の保育における学びの意味と効果について新たな見識を得た。 2.ツール開発・カリキュラム開発:ツール開発も順調に展開できた。26年度に開発実装したドキュメンテーション制作アプリのプロトタイプを、3つの保育園で実験をおこなった。ドキュメンテーションが保育実践の省察とデザイン・理論構築への効果的役割について明示した。そこから記録・記述・アーカイブ化による検索・保存のための機能構造を捉え直しアプリの改良をおこなった。カリキュラム開発では、ツール開発と実践・理論との3側面から展開した。これらは「表現活動の実践場面」と「保育者向けの園内研修の場面」から捉えた。特に保育者の表現の活動実践から、学びの意味やデザインの知見が入ることで、効果と価値について段階的に理解していくしくみの検討をおこなった。 3. 保育実践・理論構築:保育実践においても研究は順調である。26年度は「素材との対話の意味」を探究目標としたが、さらに内容を深め27年度は「素材との関わりを年齢よる違いと意味」を探究した。また「表現活動における子どもと保育者と対話」に焦点をあてた探究をおこなった。理論構築では文献研究(「驚くべき乳幼児の心の世界」等)をもとに、27年度の実践の事例について解釈し、結果をレッジョ・スタッフへ発表・ディスカッションをおこなることで深め、28年度の実践・理論構築の方向性を明示できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 調査・発表:28年度は保育学会自主シンポ(5/7)で「表現プロセスにおける子どもと保育者の対話を考える」を開催し多くの来場者に発表できた。7月のデザイン学会ではドキュメンテーションツールに関する発表、9月のEECERA(国際学会)では子どもの素材との対話における文化的背景に関する発表を予定している。11月にはレッジョ・エミリアに赴き、昨年のプレゼン・ディスカッションを踏まえた実践と理論研究の成果を発表・調査していく。またドキュメンテーションツールを完成させ、フリーウェアソフトとして社会に発信させる。 2.ツール開発・カリキュラム開発:ツール開発は、記録撮影アプリ(iPhone実装)及び撮影記録データをアーカイブ化するアプリ(Mac実装)の組合せて開発しており、保育現場での実験・評価を基に改良していく。特にアーカイブ・アプリではレイアウト機能の基本実装から実験・評価を加え展開していく。カリキュラム開発は「園内研修」「表現活動の振り返りとデザイン」を保育者・デザイン専門家・教育専門家で展開していく。特に保育者向けの表現WSをおこない、学びの意味を獲得する過程を精査し、理念・方法・計画の考察を基に芸術保育士養成カリキュラムを設計する。 3. 保育実践・理論構築:保育実践では、27年度を振り返り、特にレッジョ研修で得られた見識から子どもの表現活動と保育者及び素材との関係性について深め、実践のデザイン→実践→振り返り→次の実践デザインの流れにおける保育者とデザイン専門家と教育専門家との協働(対話)に着目し、各専門性の融合プロセスを捉え、そのしくみを明示する。3年間の集大成として、子どもと素材・保育者の対話をテーマに具体的実践で得た内容をまとめた出版を計画している。それはアート思考としての学びの多様性と可能性を踏まえ「実践にフィードバックできる創造的活動理論」として深めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(約45.8万)の内30万円分については、研究分担者の一人がレッジョ・エミリア国際センターにて調査・発表のため、渡伊を予定していたが、急遽参加できなくなり、キャンセルしたことが理由である。また9.8万円分については研究分担者の一人が昨年度前期が産休であり、その後も育児のため、研究定例会には参加したが、予定の研究費を施行できなかったことが理由としてあげられる。また残額の6万については、開発中の実装アプリ実験用として購入を予定していたが、26年度購入のiPodで実験をおこなうことにした。アプリ最終仕様決定される28年度には、より早い処理速度が必要なため、最新のCPU搭載したiPodを実験用として購入を検討している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の研究費使用計画としては、以下のとおりである。「活動実践のための表現WSに関わる道具・素材費用(消耗品費)」及び「調査資料・文献購入費」として約40万「観察記録アプリ開発・実験・評価用として機材購入(iPod2台)及びその他(設備備品費)」として約12万、「国内調査及び学会発表費」として約33万、「海外調査・発表」として約100万、「視察調査通訳費及び資料分析補助費(人件費・謝金)」として約40万、「ソフトウェア開発費」として約130万を予定している。
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Research Products
(12 results)