2014 Fiscal Year Annual Research Report
父性発現に必要な内側視索前野の活性化メカニズムの探索
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26282220
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
黒田 公美 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, ユニットリーダー (90391945)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 親子関係 / 養育行動 / 子殺し / 父性 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、マウスの性行動や子育て行動に関わる脳部位である内側視索前野MPOAとそれに隣接する分界条床核BSTを含む領域を種々の神経伝達物質やニューロペプチドなどのマーカー分子で染色し、神経化学的にMPOA・BST周辺領域を亜核に分割した。次に下記5群の異なる社会行動を2時間前に経験し、還流固定したオスマウス脳を準備した。総計88匹のマウス脳の内側視索前野と分界条床核を含む冠状断脳切片を、c-Fosと各亜核を識別するためのマーカー分子で共染色した切片を作成した。 1 単独(対照)、2 子殺し、3 子育て、4 メスとの交尾、5 オス同士の攻撃行動 これらの行動によってc-Fos発現が上昇する亜核を、MPOA-BST領域から9か所選定し、亜核ごとのc-Fos陽性ニューロン数をNeurolucida神経描画システムを用いて定量化した。そして各亜核のc-Fos陽性ニューロン数から過去の行動を最もよく説明する線型判別関数を求め、Leave-one-out法を用いたクロスバリデーションにより、誤判別率を算出した。すると、3つの亜核のFos発現密度を独立変数とし、過去の社会行動を判別すると、90%以上の正答率が得られることが明らかとなった。 さらに、Classification tree model解析を行うと、4つの脳部位のFos発現密度がそれぞれ特定の社会行動と相関することが明らかになった。すなわち交尾は内側視索前核内側部、子殺しは分界条床核菱形核、攻撃は分界条床核前外側部、養育は前交連核または内側視索前野中心核である。興味深いことに、子を金網に入れて提示することにより直接養育や喰殺を行うことができない場合でも、ほぼ一致した活性化パターンが得られた。従って仔提示によるこれらの核の活性化は、養育と喰殺という行動の結果ではなく、その意図ないし動機に相関すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当所の予定では、社会行動の種類は養育と子殺しに限って行う計画であったが、計画以上に予定が進展したため、次の2条件を追加で行った。すなわち、社会行動の相手をオスまたはメスの成獣とした場合の、オス間攻撃行動とメスとの交尾行動を並行して行った。 メスとの交尾は、オスの子に対する行動を仔殺しから養育へと変化させるうえで不可欠である。また同じMPOAにその中枢ともいえる脳部位が存在する。一方、オス間の攻撃行動はむしろ視床下部にその中枢があると考えられているが、具体的な行動(噛みつくなど)が子に対する攻撃行動と類似するため、比較のために有用であったため、追加したものである。 結果としては、93%と想像以上に高精度に5種類の社会行動を4つの神経核のFos発現量という単純な情報によって判別することができた。また社会行動を養育、子殺し、対照の3群に限った場合には、判別率は97%と非常に高率であった。 現在、並行して、次年度以降の実験の条件検討・予備実験を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記亜核の活性化や不活性化によってマウスの行動を操作することを試みる。すでに申請者らは、マウス脳定位手術法で成体マウスMPOAにNMDAを微量注入し、NMDAの興奮毒性によって、通過軸索には影響を与えずにNMDA型グルタミン酸受容体を持つ細胞体のみを永久的に破壊する手術技法を確立し、この方法によるcMPOAニューロンの両側破壊で母マウスの養育が阻害され喰殺を行うようになることを明らかにしている(Tsuneoka et al, 2013)。そこで同じ手法を父マウスの両側cMPOAに適用して父性的養育が阻害されるか、また未交尾マウスの両側BSTに適用した場合喰殺を抑制するかどうかを検討する(各N=12)。 次に、cMPOAニューロンの活性化が養育行動を引き起こすことができるのか、すなわちcMPOAニューロンの活性化と養育行動の因果関係を明らかにする。そのために、ChR2-GFPを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)を、脳定位手術により未交尾マウスのcMPOAに感染させる(正しく注入・埋め込みできたマウスを12匹以上確保)。ウイルス注入と同時に光ファイバーの埋め込み手術を行い、4週後に光刺激下において、子を提示し被験マウスの行動を観察する(詳細は図3)。光刺激なしでは未交尾オスマウスは子を喰殺するが、cMPOAニューロンが光脱分極により活性化すると喰殺が抑制・養育が促進するかどうかを検討する。cMPOAニューロンへの刺激がどのような時間スケールで行動変化に必要であるかが事前には不明であるため、同じ実験プロトコルを連続で5日間行い、ニューロン脱分極による急性変化だけではなく、遺伝子発現を介する行動変化も捉えることができるように工夫している。
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Causes of Carryover |
予定していた備品を当該年度中に購入しなかったので結果的に翌年度に持ち越しとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験するための機器、備品の購入および専任のスタッフの人件費を研究費より使用する予定である。
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Research Products
(4 results)