2015 Fiscal Year Annual Research Report
父性発現に必要な内側視索前野の活性化メカニズムの探索
Project/Area Number |
26282220
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
黒田 公美 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (90391945)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 親子関係 / 養育行動 / 子殺し / 父性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Classification tree model解析により、4つの脳部位のFos発現密度がそれぞれ特定のオスマウスの社会行動と相関することが明らかになった。養育が内側視索前野中央部cMPOA、子殺しは分界条床核菱形核BSTrh、攻撃は分界条床核前外側部、交尾は内側視索前核内側部である。 今年度はcMPOA, BSTrh不活性化によってマウスの行動を操作する実験を行った。マウス脳定位手術法で成体マウスMPOAにNMDAを微量注入し、NMDAの興奮毒性によって、通過軸索には影響を与えずにNMDA型グルタミン酸受容体を持つ細胞体のみを永久的に破壊する手術技法(Tsuneoka et al, 2013)により、父マウスの両側cMPOA破壊は父性行動を完全に消失させ、子殺し行動を誘発することを示した。またBSTrhの両側破壊は未交尾オスの子殺しを遅滞・抑制させることも明らかになった。
次に、cMPOAニューロンの活性化が養育行動を引き起こすことができるか、cMPOA活性化と養育行動の因果関係を検討した。ChR2-GFPを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)を、脳定位手術により未交尾マウスの片側cMPOAに感染させ、同時に光ファイバーの埋め込み手術を行い、4週後に光刺激下において、子を提示し被験マウスの行動を観察した。cMPOAに光刺激を与えることにより、継時的に子殺し行動が減少し、5日目には対照群(ChR2なしのGFPのみを組み込んだAAVウイルス投与オス)との行動の間に優位差が出現した。 次に、この結果を確認するため、DREADDsシステムのGqをChR2のかわりに組み込んだAAVウイルスベクターをcMPOA両側に投与した未交尾オスの行動変化を観察した。CNO投与により、子殺し行動は遅延したが、最終的に養育に転じることはなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
全体に実験が予想以上のペースで進んだため、H27年度中に本申請課題研究の上述までの結果を第一報としてEMBO Journalに投稿し、無事採択された。 H28年度は、残りの部分、すなわちスライスを用いた電気生理学的実験の部分を施行する。
|
Strategy for Future Research Activity |
cMPOAにAAV-ChR2-GFPを感染させ光刺激・行動実験を行なったマウスを準備し、スライスパッチクランプ法によって光刺激によるBSTニューロンのシナプス後電流を測定、ピクロトキシン感受性も調べることにより、cMPOAニューロンの光脱分極がBSTニューロンに抑制性電流を誘導するかどうかを明らかにする。なお、申請者らはすでに古典的な前向性・逆行性トレーサーとGABAニューロンマーカーとの共染色による解析によって、cMPOAからBSTへのGABA性投射の存在を示唆している(恒岡・黒田、未発表)。 同様にしてBSTにChR2を組み込んだAAVウイルスベクターを感染させ光脱分極を起こさせることにより、父マウスの養育を抑制し喰殺を引き起こすかどうか、またBSTニューロンの光刺激がcMPOAに抑制性電流を引き起こすかどうかも検討する。
さらにメスとの交尾・同居という社会経験がcMPOAやBSTなどの子に対する行動選択に関わる脳部位のニューロンの反応性を変化させる可能性を検証するため、未交尾オスマウスと父マウスの脳スライスを作成してcMPOAやBSTの細胞からホールセルパッチクランプ法による単一細胞記録を行い、神経伝達物質や自発発火頻度などの生理学的な基本的特性を明らかにする。この際にバイオサイチンを含む電極内液を細胞質に導入、記録終了後の脳スライスをc-Fosまたは前半で明らかにしたマーカー分子と記録細胞のビオチン・アビジン反応による二重染色を行うことで、行動に活性が相関する細胞を事後的に同定する。これにより、メスとの交尾・同居の経験によって父性が発現し子を養育するようになるに伴い、どのような神経可塑的変化が起こるのかを同定できると期待される。
|
Causes of Carryover |
予定していた備品の購入が当該年度内に実行されなかったため
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験動物、機器の購入および専任スタッフの人件費に使用予定である。
|
Research Products
(7 results)