2015 Fiscal Year Annual Research Report
A Comparative Study of Dynamics and Attitudes of Arab Migrants-Refugees in Jordan and Sweden
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26283003
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
錦田 愛子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (70451979)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱中 新吾 龍谷大学, 法学部, 教授 (40344783)
高岡 豊 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (10638711)
溝渕 正季 名古屋商科大学, 経済学部, 准教授 (00734865)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 移民 / 難民 / アラブ / 政治学 / 世論調査 / ヨルダン / スウェーデン / 学際研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目の研究では、スウェーデンでの量的調査(世論調査)の準備、および質的調査(聞き取り調査を中心としたフィールド調査)を行なった。また調査の結果を分析し、国内外の学会等で成果発表を進めた。 2015年9月のフィールド調査では、まずスウェーデン南部の移民/難民が多く住む都市マルムーにおいて、大規模な移民街であるローセンゴードを訪問し、モスク(イスラーム文化センター)の責任者から設立の経緯などの説明を受けた。また移民/難民用の公立スウェーデン語学校であるSFIで校長の協力のもと、イラク、シリア、パレスチナ出身の生徒に対して、アラビア語での聞き取り調査を行なった。次に首都ストックホルム市内では、多文化研究センターを訪問し、またSFIで同様に聞き取り調査を行なった。聞き取り調査では、アラブ系移民/難民が、それぞれ移動の過程で経験した状況や、親族の離散状況、現在のスウェーデンでの生活に対する満足度と問題点などが明らかにされた。 量的調査では、スウェーデン国内でのアラブ系移民/難民を対象とした世論調査の準備を行なった。委託先機関として、スウェーデン国内の複数の調査機関と協議を行い、相見積もりを出した上で、中央統計局への委託を決めた。調査では、対象者の移動の経験や、スウェーデンを目的地に選んだ理由、今後の移動に関する考え方などを設問に含めて、質問票を作成した。これらはヨルダンで実施した世論調査を基本的に踏襲したもので、調査結果の比較分析が可能な形に設計した。 成果公開としては、前年度にヨルダン大学戦略研究所に委託し実施した世論調査の結果を分析し、その成果をイギリスのエクセター大学など国内外の学会や研究集会等で報告した。また成果に基づく論文の執筆を進め、研究で用いる量的・質的調査の方法論の統合が、移民/難民の移動の動機や実態を明らかにする上で有効であることを実証的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質的調査では、順調にフィールド調査が進んだ。スウェーデンでのフィールド調査の実施時期は、ちょうどシリアからの移民/難民がEU諸国に多く押し寄せる時期に重なったため、そうした人の移動の波が、主要な目的地の一つと位置づけられたスウェーデン社会にどのような影響を与えているのか、参与観察することができた。予定していたSFIでの聞き取り調査に加えて、マルムー中央駅とストックホルム中央駅周辺では、移民/難民を受け入れる市民社会の状況について現地調査ができた。経由地のヘルシンキでは、移民/難民排斥運動に遭遇したことから、関係者から話を聞き、集会を観察するなど、他の北欧諸国での受け入れをめぐる反応について比較参照となる事例研究ができた。 成果発表については、予定以上の結果を出すことができた。研究代表者、研究分担者、研究協力者は共同で、エクセター大学での国際ワークショップでの報告のほか、日本政治学会でパネルを組んで発表した。さらに北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターで開催された国際シンポジウム等でも、アラブ系移民/難民の動態と意識について、調査の成果に基づく個人発表を行なった。 だが量的調査では、情勢変化という不測の事態により、研究の遂行に問題が発生した。スウェーデンでの世論調査は、2015年度内に実施する予定で、中央統計局を訪ねて担当者との事前協議を順調に進めていた。しかし契約締結と調査の内容の最終確認の段階になって、パリ市内で同時多発テロ事件が起きたため、EU圏内での移民/難民をめぐる緊張が急激に高まり、年度内の調査の実施は難しい状況となった。世論調査は翌年度に延期せざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
延期となったスウェーデン国内でのアラブ系移民/難民対象の世論調査については、当初は実施可能との返事であったものの情勢変化により対応不可との連絡が届いたスウェーデン中央統計局に代わり、民間調査会社NOVUSに委託して調査を実施することとなった。2016年初めに連絡を取り、具体的な実施時期等についてすでに協議を始めている。見通しとしては、2016年夏までに契約を交わし、秋頃実施予定である。 また質的調査としては、ひき続き次年度もスウェーデンおよびヨルダンやレバノンなどでフィールド調査を行なうことを計画している。政治情勢の変動を受けて、アラブ系移民/難民の移動や、移動に対する意識にどのような変化が生じたのか、明らかにしていきたい。 調査を踏まえた成果発表も、積極的に進めていく。今年度中に執筆した成果論文の多くは、2016年度に刊行される予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年12月、パリ市内で起きた同時多発テロ事件により、ヨーロッパ在住の中東系移民/難民のテロ行為への関与が警戒され、注目を集めた結果、想定外にも調査委託提携を予定していたスウェーデン国家統計局の申し出により、中東移民/難民を対象にした世論調査の実施が不可能になった旨、連絡があった。その後、別の民間調査機関と交渉を進め、日程を再調整した結果、内容を協議し、世論調査を延期して実施することとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
スウェーデンの民間世論調査会社NOVUSへ委託して、スウェーデン全土の在住のアラブ系移民/難民(シリア系、イラク系、パレスチナ系)を対象とする世論調査を実施する(予定額 200万円)。 またヨーロッパで現在、アラブ系移民/難民がおかれた状況について現地調査を行ない、調査結果に基づく成果報告を国際研究集会で行うための旅費を支出する(予定額 60万円)。
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Research Products
(24 results)