2015 Fiscal Year Annual Research Report
近代ロシア文化の「自叙」の研究:自伝的散文と回想を中心に
Project/Area Number |
26284044
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大平 陽一 天理大学, 国際学部, 教授 (20169056)
梅津 紀雄 工学院大学, 工学部, 講師 (20323462)
野中 進 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (60301090)
武田 昭文 富山大学, 人文学部, 准教授 (70303203)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 自伝・回想・日記 / 近現代 / ロシア(ソ連) / 歴史 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代以降のロシア(ソ連)文学・思想・絵画・映画等に関係した者の自叙(自伝的小説、回想、日記、手記、書簡等)を対象として、歴史や記憶の問題を「私」という語りの機制と連関させて考察し、ロシア文化において大きな比重を閉める歴史と個人の問題に新たな一石を投じようと意図するものである。 研究の2年目である27年度は、関係者が必要な文献資料の整備を継続するとともに、研究会を2016年2月6日に早稲田大学文学学術院において公開で実施し、情報の共有と考察の深化を図った(報告は、研究分担者・大平陽一「大御所の回想:若手の回想、児童の回想:第一波亡命ロシア人におけるロシア・イメージの世代差」、同・武田昭久「自叙と擬態:ホダセーヴィチの『ヴァレリー・トラヴニコフの生涯』」、連携研究者・奈倉有里「アレクサンドル・ブローク:始まりの自叙」、同・福間加容「20世紀初頭の画家ペトロフ=ボトキンの自叙伝」)。 また、研究代表者・分担者・連携研究者は、スラヴ研究の最も権威ある国際学会の一つであるICCEESの世界大会(2015年8月3-8日、於神田外語大学等)において、本研究と関連のテーマによるパネルセッションの組織と報告をそれぞれに行い、世界の研究者への発信と意見交換を積極的に図った。 その他の実績としては、「研究発表」欄に記載したような、国内外の論集・学術雑誌への論文掲載に加えて、代表者の本務地である京都にロシアないしウクライナの研究者(のべ7名)を招請し、関連のテーマで講演会、研究会、国際ラウンド・テーブル等を公開で行って、成果の発信に努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、それが重要なジャンだった1820年代から1990年代初めまでのロシア(ソ連)における自叙(自伝的小説、回想録、日記・手記・書簡等)の考察を通して、近代以降のロシア・ソ連文化における「自己」と「歴史」「記憶」の表象を相関的・包括的に把握することをめざすものだが、対象ジャンルについては文学者・音楽家・画家とバランスが取れている一方で、時代については19世紀末-20世紀前半に集中しがちである。だが考察・分析の積み重ねを通じて、「自叙」言説分析の方法は確立されつつあり、研究は全体としてはおおむね順調に進捗していると判断できる。 研究会は今年度1回に留まったものの、関係者相互の意見・情報交換は、メールその他で円滑に行われている。先述のように、ICCEEES2015幕張大会に関係者が積極的・能動的に参加したことによって、この問題に関する国際的なネットワークも確立しつつある。資料文献の収集は、今年度は国内での個別的な作業が中心となったが、やはりおおむね順調に経緯している。 成果の発信については、ICCEES2015幕張大会における英語ないしロシア語による報告と質疑応答の他、「研究発表」欄に見るように、国内外の論集・学術雑誌への関連テーマによる論文等の掲載が複数あり、所定の成果を挙げたと判断している。また、ロシアおよびウクライナの研究者を招請して関連のテーマで公開講義、公開研究会を行ったこと、本プロジェクトの研究会も公開としたこと等により、一般市民や学生・院生への成果の還元も一定程度なしえた。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記のように、本研究はおおむね順調に進展していると判断しているので、研究方法や計画に大きな変更を加える必要は認められない。資料文献の収集・整備、公開講義等による一般市民・院生・学生への成果の還元、また研究会による関係者間の意見・情報交換と相互理解の深化等は、これまでに引き続いて尽力していく。 ただし、研究方法・体制面では、今後「近現代ロシア(ソ連)の自叙」の問題を包括的に捉えていく過程で、「近代以前のロシアの自叙」、「近代日本における自叙」との比較対照を行う必要性が強く認識されたので、これらの問題を担当する研究分担者を2名加えることによって、この点に対処する。 発信面では本研究者の関係者が多数属している日本ロシア文学会の全国研究発表会において、本研究のテーマに基づくワークショップを組織・実施し、成果を広く問いかけ、ロシア文学の専門家による討議に付すことを意図している。またその準備としての研究会(非公開)を1度、一般市民や学生の聴講を歓迎する公開を1度実施する予定である。 国際学会等での発表は、予算の許す枠内で、積極的に試みる。
|
Causes of Carryover |
ICCEES2015世界大会において本研究の関係者が組織したパネルに招聘した海外研究者の旅費・滞在費が円安等の関係で予定額を若干超過したが、26年度からの繰越金でこれを補填し、若干の残額が出た。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度に繰り越された額については、今年度は2回の国内研究会と1度の学会ワークショップを予定しているため、本研究関係者の旅費に充当することとする。
|