2015 Fiscal Year Annual Research Report
概念表現と実体化表現から見た中国語文法史の展開―構文と文法範疇の相関的変遷の解明
Project/Area Number |
26284056
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大西 克也 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10272452)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 英樹 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20153207)
木津 祐子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90242990)
松江 崇 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (90344530)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 言語学 / 歴史言語学 / 中国語 / 疑問詞 / 指示(reference) / 範疇指定 / 個体指定 / 混交言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、まず木村が担当する現代中国語の疑問詞の意味機能に関して重要な知見が得られた。即ち、中国語文法において、従来、〈人〉および〈事物〉の問いに用いると説明されてきた3種の疑問詞――“誰”(だれ)と“什me”(なに)と“na3”(どれ)――を取り上げ、三者の間に、指示(reference)に関わる意味機能上の相違が明確に存在する事実を、意味論的、構文論的および談話論的根拠に基づき論証し、疑問詞の意味機能を指示の観点から論じることの言語学的意義を明らかにした。 この成果を通時的に検証し、本課題の中心である概念表現と実体表現との関わりを解明するため、各分担者は担当する時代毎の検討を精力的に進め、28年度中の完成を目指している。このほかの成果は下記の通りである。 大西は、上古中国語の同時資料としての出土文献の言語的特質についての分析を進め、秦の仕官用教科書である睡虎地秦簡『為吏之道』や、戦国楚の史学テキスト清華簡『繋年』に混入した中原系の言語や用字特徴を明らかにし、その背景についての考察を進めた。 木津は、清代琉球・長崎の通事(中国語通訳者)が学んだ官話教本の言語的特徴を分析し、その言語的アイデンティティを明らかにし、その文体的特徴について混交言語としての側面から分析を試みた。さらに荻生徂徠の訓読論を取り上げ、徂徠が中国古典の音読よりも黙読を推奨した背景に、通事が伝えた同時代中国語への知識が影響を及ぼしたことを論じた。 松江は、中古期における疑問数詞について、指示特性と疑問機能の点から分析を行い、中古新出の「多少」には指示機能・疑問機能の面で多くの制約があると主張した。すなわち、「多少」は指示対象の個々のメンバーに焦点を当てた疑問文には用いられず、指示対象を連続体として把握した上でその量的程度を問うこと、また相手に回答を要求する機能が「幾」に比べて弱いことなどを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各分担者は、それぞれの担当する時代の中国語の特質について、着実に研究成果を挙げている。特に疑問詞に上記成果は、本研究課題の中心的テーマである中国語文法史における「概念表現」と「実体表現」の対立に密接に関係している現象であり、本課題が掲げる目標を達成する新たな見込みが得られたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究は概ね順調に遂行されており、今後も計画通り研究を遂行する予定である。学会のワークショップを活用するなど、本課題の成果を一括して発表する機会を設け、外部の研究者の意見を幅広く吸収して、より高度な成果を得ることを目標としたい。
|
Causes of Carryover |
年次ごとの配分された金額に従って使用した場合、平成28年度以降の研究の遂行(特に海外における学会発表旅費等)に支障が生じると判断し、次年度以降に使用することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用分は、最も配分額の低い平成28年度に3分の2程度を使用し、残りを29年度に使用する予定である。
|